平成23年度 入学式を挙行(2011/04/05)

イベント報告 2011/04/11

4月5日(火)、ミレニアムホールにおいて平成23年度入学式を挙行しました。
 本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれ ず、高い基礎学力をもった学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、各々の研究分野に対する強い興味と意欲をもった 者の入学を積極的に進めており、このたび、450名の新入生を本学に迎えました。
 当日は、田中 奈良県地域振興部長、山下 生駒市長、尾池 財団法人国際高等研究所所長、馬殿 財団法人奈良先端科学技術大学院大学支援財団専務理事、門田 奈良先端科学技術大学院大学同窓会会長を来賓に迎え、また本学入学式では恒例となった茂山家による狂言演能(大蔵流狂言『文荷(ふみにない)』)を行い、 奈良の伝統芸能で盛大に新入生の門出を祝いました。

【入学者数】
(博士前期課程)
  情報科学研究科      135名
  バイオサイエンス研究科 126名
  物質創成科学研究科   107名
               計  368名

(博士後期課程)
  情報科学研究科       29名
  バイオサイエンス研究科  32名
  物質創成科学研究科    21名
               計   82名

             総計   450名


【磯貝学長式辞】

 本日、奈良先端科学技術大学院大学に入学された皆さん、入学おめでとうございます。本学の教職員、学生を代表してお祝い申し上げます。まず、この機会にあらためて、本学の設立の経緯、理念、目的、また本学のこれまでの歴史について、話をしようと思います。

  本学が立地するけいはんな学研都市と呼ばれるこの地域は、関西地域に新たな学術都市を構築しようという国の方針で、1980年代につくられたものです。け いはんな学研都市の正式名称は、関西文化学術研究都市と、文化の二文字を背負っています。それには、奈良や京都という日本の文化を支えてきた地域を背景に しているという自負があります。色々な研究機関が新たにつくられるなか、当初、唯一の国の機関であったのが本学でありました。このように、本学は、けいは んな学研都市という地域の目玉としてつくられたのです。

 それでは、本学が大学院大学としてつくられた意味は何でしょうか。1980年代 後半、国は科学技術立国を目指していくなかで、先端科学技術分野に係る教育研究を行う独立大学院大学という構想にたどり着きました。ここで、先端科学技術 分野とは、「第一に広範な学際的広がりを持つこと、第二に基礎研究における全く新たな展開が見られ、その展開が極めて急速であること、第三に科学と技術の 一体化が他の分野以上に顕著であり、従来の学問分野の枠を越えて、学際的な基礎研究の推進がきわめて重要である。」として、さらに、「これまでの学部の上 にある大学院では、組織の柔軟な編成、転換等についても、おのずから一定の制約がある」ことから、学部を持たない、独立大学院大学をつくることが必要であ るとしました。こうした構想の上に立って、1991年に情報科学研究科と1992年にバイオサイエンス研究科、さらに1996年、物質創成科学研究科が設 置され、現在に至っています。

 このように、地域開発の目玉、また、大学院システムの目玉としてつくられた本学ですが、今年は1991年 の創立から20周年という節目の年に当たります。本学は教育機関としては、これまでに5000を越える修士の学位、1000を越える博士の学位を出してき ました。また、優れた教員の努力によって、数多くの世界に誇れる研究成果を出し、若い研究者を育て、日本の科学の振興に貢献してきました。今、日本の中で 一番有名な研究者であろうiPS細胞研究の山中伸弥先生も、本学であの研究を始められ、一緒にやってきた当時の学生諸君達と、京大でその後の研究を発展さ せています。

 さて、文部科学省が、国立大学法人のこの6年間のこうした教育研究の活動や成果について行った評価では、本学は86ある国 立大学法人のうち、第1位であると発表されています。本学が目指してきた「小さいながら光り輝く大学、最先端を走り続ける大学」への活動が高く評価された ものとして、私達はこの評価を誇りに思っています。こうした実績のある大学に皆さんは入学されてきたのです。その意味で、皆さんはたいへん良い選択をされ たと、褒めたいとも思います。

 最近知った話ですが、大学卒業時での学習到達度を国際比較するOECDのなかの機関での議論で、「学力」 という言葉が再定義され、「学力とは、記憶した知識の量ではなく、その知識を活用して問題を発見し、それを解決する能力である。」とされたとのことです。 学力とは単なる知識ではないという主張がここにあります。日本では、これを、「生きる力」とも表現しているようです。こうした学力をつけるなかで、皆さん には、「科学の作法」をも学んで欲しいと思っています。科学の作法とは、科学するものとしての心得で、知識体系や技術体系だけでなく、その元になる、考え 方、発想、あるいは、科学者としての倫理、また、言葉では伝えられないものなどを含んだ総合的なものです。それは、科学者になるためには必須のものであり ます。

 いま、世界の情勢を見たときに、一方では豊かに成熟した国があり、一方では、その発展が著しい国、また、まだまだ貧しいと言える 国など、様々です。現在の世界人口の60億人が2050年には90億人になると言われるなか、食糧問題、環境問題、エネルギー問題、あるいは水の問題や健 康問題など、人の暮らしの原点についても様々な問題が生じつつあります。同時に、それらの問題のフェーズが、それぞれの国々で異なることが、さらなる問題 を引き起こしています。昨年は、地球規模で暑い夏であったため、たとえばロシアでの小麦の生産高が大きく減少しました。世界銀行の2月の発表では、小麦や トウモロコシ、砂糖などの価格が3ヶ月で15%高騰したとのことです。世界の食糧備蓄も減少の傾向にあるようです。それらの問題を解決しつつ、人が人とし ての威厳を保ちつつ暮らしていくためには、これらの課題に対応するための科学技術の研究と活用が必要となります。1999年にブダペストで開催された世界 科学会議では、「科学のコミュニティーは従来の『知識のための科学』に加えて『社会のための科学』の確立を目指すことが宣言されました。今の時代、社会は 科学に動かされ、また逆に、科学は社会化してきております。これは科学が単に科学として存在しているだけではなく、人との関わり、社会のなかで存在してい るということを反映していることでもあります。

 皆さんご存知のように、この3月11日に発生した東日本大震災は、多くの人的、物的、ま た自然環境の被害をもたらしました。また、原発問題については危険な状態が続いています。今回のことは、科学技術に依存した社会がその基盤を破壊するよう な大きな自然災害にはきわめてもろいことを私達に教えたものでもあります。自然科学に関わる者として、人間は地球生態系の一部であることを意識するととも に、自然に対する謙虚さを持つことが必要であるとあらためて感じました。それは科学するものの知恵でもあります。私達科学者の任務は、自然と科学と社会の 関係を理解し、人類の幸福のために貢献することでありましょう。その意味で、今こうした事態に対し、私達自身に何が出来るかは、それぞれの立場、また大学 や、科学技術のコミュニティーとして考えていかなければなりません。さらにいえば、今回の原発事故は、第2次大戦後、エネルギー消費型、一極集中型の社会 構造を目指して発展し続けてきた日本の社会システムの一つの終焉を意味し、新たな社会システムの構築のきっかけになるのかもしれないと思っています。その 新たな社会システムを作って行くのは皆さんでしょう。その意味でも皆さんは、自らの社会的な立場を理解し、自ら学び、科学者として成長して欲しいと思いま す。

 こうした科学者像を目指すとき、もちろん、科学力とでも言うべき、科学者としての生きる力が重要ではあります。しかし、そればかり ではなく、人を見る力、即ち、人間力や感性も大事だということになります。その意味では、科学上の問題だけでなく、文化的あるいは、文系的な事柄にも興味 を持ち、人や人の営みというものに興味を持つことも大事です。実は、奈良はそうしたことを学ぶのにたいへん適したところであります。昨年1年間は、平城遷 都1300年祭が奈良の各地で開催され、2000万人を超える人が奈良を訪れました。大極殿ができた平城宮跡には360万人もの人が来たということです。 本学はこうした日本の文化を伝えてきた場所に近接してあります。どうか季節季節には奈良の各地を訪れ、日本の文化とその歴史を味わってください。これは皆 さんが奈良に来た特権でもあります。そのなかで、時には、ゆったりした時間を過ごして欲しいのです。それは皆さんが先端科学技術を学び研究するエネルギー を補充することにもなるでしょう。

 最後に、皆さんには、健康で楽しい学生生活を送って欲しいと思っています。心身共に健康であること は、生きる上で何より大事なことであります。その意味でも是非、仲間を作り、実りある学生生活を送ってください。ここで言う仲間とは、同級生という意味に とどまらず、先生や先輩達も含めた、あなたがたの人生の仲間なのです。学生時代の仲間はいつまでも仲間であり続けるあなたたちの財産です。あらためて皆さ んの本学での生活と皆さんの未来に期待して、式辞とします。


平成23年4月5日
 奈良先端科学技術大学院大学長 磯貝 彰

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