[プレスリリース]物質創成科学研究科の藤木道也教授らの研究グループが、高分子の鏡像対称性の破れと反転現象を発見(2012/03/26)

研究成果 2012/03/28

「鏡の国のアリス」のように、鏡像関係にある左右反対の立体構造をもつ光学活性分子を簡便合成する新手法や新概 念が待ち望まれています。左右どちらか有用な物質だけを効率良くつくる方法は大変難しく、原料と触媒を精密設計し、その上反応条件を最適化するなど、豊富 な経験と高度な知識、そして巧みの技を必要としていました。

本学物質創成科学研究科 高分子創成科学研究室の藤木道也教授らは、化学の常識では鏡像体が絶対できるはずのない鎖のように長く繋がった光学不活性な分子(ポリシランというケイ素 系プラスチック)を、オレンジの皮やミントの葉から採れる香料分子であるリモネンのオイルに混ぜ、さらにアルコールを常温で加えて10秒かき混ぜるだけ で、光学活性高分子が触媒なしで収率100%で自然発生することを発見しました。リモネンの体積比を2%から60%にすると、光学活性が1回から3回反転 しました。この現象は1953年に提唱されたF.C.フランクの鏡像対称性の破れと増幅理論では説明がつかないため、新理論の登場が待たれます。

プ ラスチックは世界で年間2億6000万トン(東京ドーム200個分)も生産され、その多くは左右性がない安価な汎用プラスチックです。しかし今回、ケイ素 系プラスチックの分子量を3万から10万程度[長さ30-100ナノメーター]に揃え、オレンジやレモンなど柑橘類の皮の成分から採れるリモネン(年間生 産量10万トン)を溶媒として混ぜるだけという驚くほど簡単な操作で、誰にでも光学活性高分子ができる可能性がでてきました。汎用プラスチックに本手法を 適用すれば、液晶フィルム、高純度医薬品の製造、反射防止光学フィルター、医療用器具など、高付加価値で高機能・高性能の光学活性高分子が低コストで得ら れ、また使用したリモネンは再回収して何度でも利用できるため、国際競争力ある製品作りに向けた設計指針となることが期待できます。さらにポリシランは紫 外部で強くらせん状の偏光を強く吸収し50%以上の効率で発光するため、紫外光源の新素材としても有望です。さらに本発見は、鎖のように長く繋がった生命 体の高分子(DNA、タンパク)がなぜ左右非対称なのかというパスツールの時代から150年以上も続く科学上の謎を解き明かす鍵となるかもしれません。

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