平成24年度 学位記授与式を挙行(2012/06/25)

イベント報告 2012/06/28

6月25日(月)、事務局棟2階大会議室において学位記授与式を挙行しました。

当日は、長年にわたり本学のインドネシア留学生に対する奨学及び生活支援にご尽力いただいている飯田祐子氏を来賓に迎え、出席した6名の修了生に対して、磯貝彰学長から出席者一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。

式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、磯貝学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合っていました。

※ 今回の修了生の内訳は、以下のとおりです。

【博士後期課程修了者】
情報科学研究科 2名
バイオサイエンス研究科 4名
物質創成科学研究科 1名
計 7名

総計 7名

【磯貝学長式辞】
本日、平成24年度第1回の学位記授与式にあたり、博士の学位を得られた修了生の皆さんに、本学教職員はじめ、全ての構成員を代表してお祝いを申し上げます。

皆 さんはこれまで、本学の博士後期課程で勉学するとともに、先端科学技術分野の研究において立派な学位論文を書かれました。お渡しした修了証書は、博士の学 位に相応しい知識と能力を持っているという認定の証しです。これまでの皆さんの努力に学長として敬意を表したいと思います。特に今日は7名の修了生のう ち、3名は留学生の方々です。国を離れての勉学でいろいろ不便もあっただろうと思いますが、その努力が実ったことに対して、改めて、お祝い申し上げます。

な お、本日特にインドネシア留学生の日本での母親役を長年務めていただいた飯田祐子様に、留学生のご家族の一員としてご出席いただいております。長年にわた りインドネシアからの留学生の勉学および生活について、ご支援いただいてきたことに、学長としてお礼申し上げたいと思います。

本学は昨年 10月に創立20周年を迎えましたが、本学が開学以来これまでに与えてきた学位の数は、本日学位を授与された皆さんを含めて、修士 5554名、課程博士 1049名、(論文博士39名)であります。皆さんは、こうした本学修了生の一員として、これから社会の色々な分野で活躍していくことになります。

さ て、本日修了式を迎えた皆さんへのはなむけの言葉として、元東大総長の佐々木毅さんの「学ぶとはどういうことか」という本に書かれたことについて触れてみ たいと思います。この本は、福澤諭吉の「学問のすゝめ」や「文明論之概略」を下敷きにして、しかも、3.11以降の状況を意識して、学ぶことの意味、目 的、方法について書かれています。佐々木さんは、「学び」の4段階として、「知る」「理解する」「疑う」「超える」を挙げて、単にいわゆる勉強をして知れ ばいいということでは学んだことにはならないと言っています。また、実は学べることと、学べないこと、例えば心構え(心の工夫)のようなものがあることに ついて書いています。佐々木さんは、さらに、スペシャリストと、プロフェッショナルを区別し、前者を専門家、後者を天職と言っています。専門家が「専門バ カ」と陰口を叩かれスペシャリストでしかないという状況がありますが、そこから脱出し「考える専門家」すなわち、プロフェッショナルになるには、何を「学 ぶ」必要があるかということをよく考えること、また、「学ぶ」ということを通じて、「疑う」や「超える」という段階になることが必要だとしています。私は この本を、学生諸君への推薦図書として図書館においてもらい、大学院で新たな「学び」の段階に入った学生諸君に読んでもらいたいとコメントをつけました。 しかし、本日こうした本の内容について本学を修了されていく皆さんにも紹介するのは、佐々木さんが本書の最後の方で、「さらには、こうした『学び』は継続 していかなければいけない」と言っていることによるものです。皆さんは本学でいろいろなことを学んできたはずであります。しかし、皆さんの「学び」はこれ で終わったわけではありません。むしろ本格的な「学び」は、佐々木さんの言うように、これから始まると言ってもいいのかもしれません。どうか本学で学んだ ことの基礎の上に立って、科学者として、また科学技術者としてこれからも学び続け、是非、佐々木さんの言うプロフェッショナルになって欲しいと思っていま す。

さて、この佐々木さんの本が引用している「学問のすゝめ」の第12章「演説の法を勧めるの説」には、こんなことが書かれています。昔の言葉のままですが読んでみます。

『学 問の本趣意は読書のみに非ずして精神の働きに在り。この働きを活用して実地に施すには様々な工夫なかるべからず。「ヲブセルウェーション」とは事物を視察 することなり。「リーゾニング」とは事物の道理を推究して自分の説を付ることなり。この二箇条にては固より未だ学問の方便を尽したりというべからず。なお この外に書を読まざるべからず、書を著さざるべからず、人と談話せざるべからず、人に向かって言を述べざるべからず、この諸件の術を用い尽くして始めて学 問を勉強する人と言うべし。即ち、視察、推究、読書をもって智見を集め、談話はもって智見を交易し、著書演説はもって智見を散ずるの術なり。然り而(しこ う)してこの諸術の中に、或いは一人の私をもって能くすべきものありと雖も、談話と演説に至っては必ずしも人と共にせざるを得ず。演説会の要用なること、 もって知るべきなり。』

ここには、先ほどの佐々木さんの「学ぶ」ことの方法が書かれています。最後の方に談話と演説は一人では出来ないと言っていますが、これはまさに「コミュニケーション」ということであります。

最 近NHKのニュースで、自治体がface bookを住民サービスに活用して、住民からの情報をいち早く市民に流すことが出来るようになったと言っていました。自治体の必要な情報を必要な人に届け るという意味ではこうした情報通信技術を使ったシステムは大変便利です。このように今、情報通信技術の進歩は人と人の距離を短くしました。社長と社員、大 統領や首相と国民、学長と学生や職員が相互に直接情報をやりとりし、交流することが出来るようになりました。しかし、もっともその距離が短い交流技術は、 face to faceです。福澤諭吉が言っている談話や演説というコミュニケーションも、こうしたものの一つです。ここでは単に言葉の羅列による情報ではなく、言葉の 抑揚や顔つき、気持ちの表れなど、多くの情報が含まれています。情報通信技術が発達している今だからこそ、大事なコミュニケーションにはface to faceという考え方を取り入れることを忘れないで欲しいと思っています。現代は科学者や科学技術者への信頼が揺らいでいる時代ではありますが、こうした 時機だからこそ、私たちは社会の皆さんと顔と顔が見える形で、コミュニケーションをしていかなければいけないのでしょう。国立大学という形の中で社会の 人々からの期待を受けて学んできた皆さんは、社会の科学リテラシーを高めるとともに皆さん自身の学びの場として、こうしたコミュニケーションを大事にし、 自ら経験した情報として自分の中に蓄積して欲しいと思っています。

今、関西地区の夏の電力の問題が大きな社会問題として採り上げられてい ます。もちろん、これは、3.11の福島原発の問題に端を発した、原発をどう考えるかという問題でもあります。これは単に日本という国のローカルな問題で はなく、これからの世界の問題でもあるのです。こうした問題を考えるときに、事実の問題と判断の問題をキチンと科学的な観点で区別して世の中に情報が発信 される必要があります。私たちはこうしたことについて、まだまだ、学んでいかなければなりません。私たちと言ったのは、皆さんも含めての私たち科学者、科 学技術者であります。その意味で、私も皆さんもまだまだ学びの季節は終わったわけではないことを改めて申し上げ、皆さんがこれから本学修了生という看板を 背負って活躍されていくことを祈っています。

本日は、おめでとうございます。

平成24年6月25日
奈良先端科学技術大学院大学学長 磯貝 彰

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