学位記授与式を挙行(2009/12/22)

イベント報告 2009/12/28

 12月22日(火)、事務局棟2階大会議室において学位記授与式を挙行しました。

 10名の修了生等に対して、磯貝学長から出席者ひとりひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。

 式辞では、「米百俵」の故事を引用し、教育及び将来を担う人材の養成の重要性にも触れながら、修了生においては、本学で学んだことを活かし、自らが先頭に立ち、新しい分野を切り拓くとともに、自らの仕事と社会との関わりについて常に意識し、市民の目線にたった情報を発信し、科学リテラシーの向上にも努めて欲しいと説きました。

 式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合っていました。

※ 今回の修了生の内訳は以下のとおりです。

【博士前期課程修了者】
 情報科学研究科 1名
 計 1名

【博士後期課程修了者】
 情報科学研究科 2名
 バイオサイエンス研究科 2名
 物質創成科学研究科 4名
 計 8名

【論文提出による博士学位取得者】
 計 1名

総計 10名

【磯貝学長式辞】
 本日ここに、奈良先端科学技術大学院大学博士前期課程修了者1名、博士後期課程修了者8名、及び論文博士1名のかたに、工学、理学、バイオサイエンスなど、それぞれの学位を送ることができました。学位を取得されました皆さん、おめでとうございます。本学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。皆さんは、これまで、それぞれの時間の長短はあるものの、本学の博士前期課程及び後期課程で勉学するとともに、先端科学技術分野の研究を継続され、立派な学位論文を書かれました。その努力に学長として敬意を表したいと思います。

 同時に、皆さんには、まず、本学に在学中に皆さんに与えられた、ご家族や、指導教員をはじめとする研究室の方々からの、日々の暖かいご支援を忘れず、それぞれのかたへの感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。

 毎年、漢字検定協会が選んでいる「今年の漢字」に、「新」(あたらしい)という字が選ばれました。今年は、1月にアメリカでオバマ大統領が就任し、また、日本では9月に鳩山内閣総理大臣が誕生しました。いずれも、これまでの政権が変わることで新しくなった、ということであります。今年の流行語大賞に「政権交代」が選ばれたのも、これを象徴しています。こうして、変わって新しくなることが重要であることは、ダーウィンが種の起源で生物の進化について述べたことでもあります。今年はそのダーウィン生誕200年、種の起源発刊150年の年であることも、今年という年をまとめるには、大事なキーワードであると思います。こうした世界の節目の年に皆さんは本学を修了されたわけです。皆さんも、本日、それぞれ学位を取得され、まさに立場が変わって新しくなったということが言えます。ところで、人がものを知る、あるいは、何かが分かるということは、それ以前の自分の状態とは変わった、あるいは違った、新しい人になる、ということだと私は理解しています。それは皆さんも、本学で学んでいる間に感じたことではないでしょうか。こうして、人は日々変わって、前の日の自分とは違った人になっていく、それが個人としての成長であろうと思います。また、それが教育、あるいは、学習というものの成果であろうと思います。たぶん、今、皆さんは、本学に入ってきたときとは随分変わってきている、つまり成長したと、確信しております。

 さて、最近のもうひとつの話題の流行語は、事業仕分けという言葉でしょう。新しい政権のこれも象徴的な事業として、テレビで中継され、多くの人の目をひきました。特に、科学技術関連の予算についてのきびしい評価は、私達大学人の反発の様子も含め、マスコミを賑わしました。事業仕分けについての学長としての反応については、既にこれまでにも述べて来ましたから、今日は省きますが、こうした状況を見てきて、感じたことを、修了生の皆さんとの関わりという意味で、この機会に少し述べてみたいと思います。

 大学の社会における役割は知の創造と伝承であり、それらを通じての社会貢献であります。知の創造という観点で見るとこれは、大学における研究でしょう。今回の仕分け作業で、科学技術研究についてきびしい評価がされたのは、個々の事業の中身に問題があったこともあるのかもしれませんが、それ以上に、これまで科学技術振興ということで、長く予算的に優遇されてきたため、余りその重要性を大学の外に発信してこなかったという、科学者の独りよがりがあったのかもしれません。また、同時に、世の中の科学リテラシーがまだ未成熟で、それぞれのプロジェクトの意味や、重要性が余りよく理解されなかったということもあるのかもしれません。さらに、最近の科学技術がほとんどブラックボックス状態で、科学技術の影の部分に対する、世の中の一般的な不安が背景にあるのかもしれません。しかし、もしそうだとしても、自らの研究の重要性を分かって貰えるため、また、町の科学リテラシーを高めるための努力を大学人がどのくらいしてきたのか、私達はもう一度考えなければいけないのだろうと思います。

 大学のもうひとつの重要な機能である知の伝承、すなわち、教育という問題に関連して、仕分け作業を見ていて思い出した言葉に、「米百俵」という言葉があります。この言葉は、一般には、第87代内閣総理大臣に就任した小泉純一郎氏が、平成13年5月13日の所信表明演説の中で引用して有名になりました。しかし、本学では、その演説の約2ヶ月前、3月23日の本学修了式の学長式辞のなかで、当時の山田康之学長が、この故事を紹介しています。山田学長の著書の「富雄川の水絶えず」の中からのこの部分を引用してみます。山田先生は、今の日本は社会の変革期にあると言うことを述べられ、続いて次のように話されておられます。

 「現在と同じように社会的混乱と社会変革に面した明治維新の時の話をします。戊辰戦争で廃墟と化した長岡藩の食糧の困窮を見かね、明治3年、支藩の三根山藩から米百俵が救援されました。長岡藩大参事小林虎三郎は佐久間象山の門下で、吉田寅二郎(松陰)と共に、「象山門下の二虎」と呼ばれた人でありましたが、その米の配分を待つ藩士に対し、その日暮らしでは藩は成り立たないとして、この米を売り、書籍を購入し、国漢学校を設立しました。小林虎三郎は立国の根源は教育にあるとしました。誠に奥深い精神であり、その心は今も「米百俵」の故事として言い伝えられています。」山田康之先生の米百俵の話はここまでですが、長岡について語った、あるホームページによると、この処置に多くの藩士は反対したのだそうです。しかし、最終的に教育の重要性を理解し、潔く既得権を放棄して、将来のため今の苦しみや痛みに耐えなければならないと決断したのであると書かれています。

 さて、教育の重要性、将来を担う人材の養成は、このように、いつの時代も重要な課題であります。今こうした人材の養成は、大学、特に大学院という制度に託されています。しかし、今回の仕分け作業で、そのことがきわめて重要なものであると理解されたかどうか、疑問があります。日本においては、大学への政府の投資は、世界各国の半分くらいしかないという状況の中で、これをもっと増やすべきであるという声は、残念ながら、仕分け人からも、町の人からも余り聞こえては来ませんでした。米百俵の精神が日本に充満しているとは言えないのです。これもまた、大学というものが、人材育成という観点から、将来に向けていかに重要なものであるかと言うことについて、大学人、あるいは、それを支援する立場の人たちからの、世の中への発信が少なかったためかもしれません。本学は、科学技術を中心とする大学院大学でありますが、これからの社会には、科学技術ばかりではなく、文化的なあるいは文系の学術もいっそう重要になってくるはずです。こうした、学術、科学、科学技術、文化などを総合的に発展させる中でしか、これからの地球の生命.あるいは人間社会は存続できないだろうと思います。

 今回行われた個々のプロジェクトについての仕分け作業の見解の妥当性は別にして、これからの地球の世紀において、科学、あるいは、科学技術がきわめて重要であることは間違いのないことであります。その先頭にたって、皆さんが、本学で学んだことを活かし、活躍されていくことを、私は期待しております。特にこれからは、キャッチアップ型から、自らが先頭にたって、分野を切りひらいていくことが期待される時代です。皆さんに対する期待は大きいものがあります。そのなかで、皆さんは、自らの仕事と社会との関わりについて常に意識し、それらについて、市民の皆さんの目線にたった発信をしていって、社会の科学リテラシーの向上にも務めて欲しいと思います。それが科学者あるいは科学技術者としての職業倫理であると思います。同時に、こうした大学での科学技術研究や教育に関わる経費、あるいは皆さんの生活支援に使われてきたお金は、そのほとんどが、国の将来を託すべき人達を育てるために、町の人たちからの税金というもので賄われていたということを忘れないで欲しいと思います。そしてその託された意図を理解し、それに対する責任を感じて欲しいと思うのです。それが皆さんの社会に対する責任であろうと思います。高い職業倫理感と社会に対する強い責任感をもった、優れた科学研究者、科学技術者を世の中に出す。それが本学に期待される社会貢献であると思うのです。大学にとって、修了生は大学の財産でもあります。教育の成果の評価について議論されるとき、それは短期間ではできないという話を良くします。結局、教育の成果は、たとえば10年後あるいは20年後、修了生がどういうところでどのように活躍しているかによってしか、評価できないのです。そして、皆さんの活躍が大学のブランド力を作っていくことになります。

 私はいつも、大学は港のようなものだと言っています。皆さんは、人生の世界一周の旅の中で、ある期間、この港に滞在し、英気を養い、成長してまた出ていく旅人であります。そして私達大学人は、港を守る人であり、灯台守であります。港を守る人たちもある期間を過ぎれば変わり、港自体も成長して、常に新しくなっていきます。しかし、重要な港は、時代を越えて残っていくはずです。どうか、皆さんは、時々は、皆さんが育った港に戻ってきて欲しい。そして、皆さんが今住んでいる世界の話を聞かせて欲しい。また、港を共有した人たちとのつながりを大事にして、生きていって欲しい。それが、皆さんが港を外から育てるということなのです。

 皆さんが本学出身であることにほこりを持ち、これからの人生の中で、活躍してくれることを、あらためて期待して、お祝いの言葉といたします。おめでとう。

平成21年12月22日
奈良先端科学技術大学院大学
学長 磯貝 彰

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