学位記授与式を挙行(2010/09/24)

イベント報告 2010/09/28

 9月24日(金)、事務局棟2階大会議室において学位記授与式を挙行しました。
 17名の修了生に対して、磯貝学長から出席者一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。

 式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分ち合っていました。

※ 今回の修了生の内訳は以下のとおりです。

【博士前期課程修了者】
 情報科学研究科 1名
 バイオサイエンス研究科 1名
 計 2名

【博士後期課程修了者】
 情報科学研究科 8名
 バイオサイエンス研究科 2名
 物質創成科学研究科 3名
 計 13名

【論文提出による博士学位取得者】
 計 2名

総計 17名


【磯貝学長式辞】

 奈良先端科学技術大学院大学は、本日、博士前期課程修了生2名、博士後期課程修了生13名、また論文提出による博士学位取得者2名の方々に、それぞれ工学、理学、バイオサイエンスの学位を授与することができました。あらためて学位を取得された皆さんに、本学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。これで、これまでの学位取得者の合計は、博士前期課程修了者4,885名、博士後期課程修了者934名、論文博士36名となり、その数の多さにあらためて本学の歴史を感じます。

 皆さんは、本学の勉学の中で、また自らの勉学の中で研鑽を積まれ、先端科学技術分野において立派な学位論文を書かれました。その努力に学長として敬意を表したいと思います。皆さんが、学位取得にいたる過程で、ご家族や、指導教員をはじめとする研究室の方々からいただいた、日々の暖かいご支援を忘れず、それぞれのかたへの感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。
 また、本日の博士後期課程修了者のなかに、4名の社会人がおられます。本学は、先端科学技術の推進のために、社会人の再教育をその目的の一つとうたっておりますが、それを実行できたことの証拠として、これもうれしく思っております。

 大学という所は、知の創造と伝承を目指し、その中で、社会に貢献していくことがその重要な機能であります。その意味で、皆さんが本学を修了された成果は2つあります。その一つは、皆さんの学術業績で、もう一つは、皆さん自身であります。私は8月の学長通信の中で、「修了生の皆さんへ」というテーマで、大学の歴史の一面は修了生が社会で活躍する中で作っていくのだということを書きました。それが、皆さん自身が大学の一つの成果であることの意味であります。大学は皆さんにとって単なる通過点ではなく、皆さんの人生の拠点であります。大学院修了あるいは学位取得というのは、小学校からの学業生活の一つの区切りではあります。しかし、その延長上に、一生勉学しつつ社会の中で活躍してくことが、皆さんのこれからに期待されていることであります。これまでは、まだまだ科学者あるいは科学技術者として、一人前とは見なされないことがあったかもしれません。だからこそ、周りの人は優しく、いろいろなことを教えてくれたことでしょう。しかしこれからは、一人前の科学者として、あるいは科学技術者として、自らが考え、学び、成長していく必要があります。かつて私が本学で教えた学生に、「企業に就職して研究は大変ではないか」と聞いたとき、「大学にいたときのことを考えると、たいていのことは大丈夫です」と答えてくれました。大学での研究生活は、最先端の研究で、毎日が相当大変な日々であったのでしょう。そうした中で鍛えられた知力あるいは人間力は、その学生の社会生活の基盤になっていると思いました。これは皆さんにもきっと当てはまることだと思っています。

 さて、皆さんがこれから活躍していく時代は、地球は一つと考えざるを得ない社会を持った時代です。しかし、それは単なるグローバリズムという言葉で整理されてしまうほど簡単ではありません。エネルギー問題、食料問題、環境問題など、いずれも地球規模の課題ではあります。一つの国の有り様が、すぐに地球全体に影響をもたらす時代です。ロシアの暑い夏はコムギの不作をもたらし、世界の穀物事情を悪化させているのが一つの例です。しかし、それらの問題の現れ方は、それぞれの地域で異なってくるでしょう。その意味では、具体的な課題は地域にあるということができます。

 私は先週一週間、インドネシアに出かけておりました。3つの主要な大学の学長に会って、本学との今後の連携をいっそう深めるための訪問でした。その中で短い時間でしたが、インドネシアの状況を見てきました。2億4千万人という世界第4位の人口を抱え、それほどの工業化は進んでいない状況で、まだまだ決して生活が豊かだとは言えません。ただ、生物の多様性については、世界で2番目であるという生物資源大国ではあります。赤道直下で、緑豊かな、ヒンズーやイスラムの古い歴史をもった国でした。そのなかで、必ずしも研究設備などが十分でないなか、国の将来を背負うべく、多くの学生達が勉学に励んでいます。本学にもインドネシアからの留学生がたくさんおります。今回のインドネシアへの旅の中で、日本が、あるいは私達が、この国のために出来ることは沢山あるのではないかと、あらためて感じました。

 これは、インドネシアの問題に限ったことではありません。日本と国際社会との関係をあらためてみてみると、この20年間に、アメリカ中心からアジア中心に移っています。寺島実郎氏のデータによれば、1990年には、日本の貿易総額の相手国は、アメリカが27%でアジア地域は30%でした。そのなかで中国はわずか4%です。ところが2010年には、アメリカは13%に減少し、アジア地域は52%となって、中国は21%を占めています。すなわち貿易相手国としては中国とアメリカの関係はすでに逆転しています。今後の、中国やインドの人口増加を考えると、日本にとっての世界では、ますますアジアの位置づけが重くなるでしょう。こうした中で、日本はどういう立ち位置を占めようとするのか、大きな課題であります。皆さんが活躍する時代はこうした時代なのです。中国は、今の尖閣諸島問題に見られるように、いっそう国の覇権を強めようとするでしょう。その中で、日本の国際的プレゼンスを高めるためにはどうしたらいいのか。自然資源の少ない日本において誇れるものは人材資源です。多くの発展途上国との協力関係を保ちつつ、その科学力でアジアや世界に貢献する国、このような国として日本をイメージしたとき、皆さんのこれからの活躍の場は、日本だけでなく、多くの国際的、あるいは地球的な、場があるはずです。そうした立場に立って、物事を判断し活躍することが、地球は一つであると考えていく一つの道であり、国際的な視野を持った科学者、科学技術者への道であります。

 この10月に名古屋で、生物多様性条約締約国会議、通称COP10が開催されます。生物ばかりではなく、国のあり方も、大学のあり方も、また、人のあり方も、多様な中でこそ、それぞれの組織の未来があるのだと思います。こうした概念に立つ社会、また科学に対する信頼度の高い社会の実現のためには、社会の科学力を高めていくことが必須であります。科学を有効に活用しうる社会あるいは世界の実現のために、どうか皆さんが、それぞれの立場で、社会の科学リテラシーを高めるための努力もして欲しいと思います。 
 このような時代に、科学者としての第1歩を歩き出した皆さんに対する期待は、大きなものがあります。皆さんには、科学者としての倫理観と責任感を基礎に、それぞれの専門性を生かして、活躍して欲しいと思っています。また、皆さんなら、きっと、これからの人生の中で、困難な問題に遭遇しても、本学での経験を生かして、それらの課題を解決し、自らの道を見つけ、切り開いてくれるものと確信しております。

 最後に、繰り返しになりますが、皆さんが本学の歴史を作っていくのだと言うことを忘れず、これからの人生の中で、本学や、本学で作りあげてきた人脈を活かしていってください。そして、機会があれば、本学を訪問して皆さんの活躍ぶりを聞かせてください。皆さんが本学出身であることに誇りを持ち活躍してくれることを、あらためて期待して、お祝いの言葉といたします。

平成22年9月24日
奈良先端科学技術大学院大学

学長 磯貝 彰

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