学位記授与式を挙行(2010/12/22)

イベント報告 2010/12/28

12月22日(水)、事務局棟2階大会議室において学位記授与式を挙行しました。
8名の修了生に対して、磯貝学長から出席者一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。

式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合っていました。

※ 今回の修了生の内訳は、以下のとおりです。

【博士前期課程修了者】
 情報科学研究科 1名
 計 1名

【博士後期課程修了者】
 情報科学研究科 1名
 物質創成科学研究科 3名
 計 4名

【論文提出による博士学位取得者】
 計 3名
 
 総計 8名


【磯貝学長式辞】
奈 良先端科学技術大学院大学は、本日、博士前期課程修了生1名、博士後期課程修了生4名、また論文提出による博士学位取得者3名の方々に、それぞれの専門分 野に従って、工学、理学、バイオサイエンスの学位を授与することができました。あらためて学位を取得された皆さんに、本学の教職員を代表して心よりお祝い 申し上げます。皆さんを加えてのこれまでの学位取得者の合計は、博士前期課程修了者4886名、博士後期課程修了者938名、論文博士39名となり、その 数の多さにあらためて本学の歴史を感じます。

皆さんは、本学の勉学の中で、またさらに自らの勉学の中で研鑽を積まれ、先端科学技術分野に おいて立派な学位論文を書かれました。その努力に学長として敬意を表したいと思います。一方、皆さんは、学位取得にいたる過程で、ご家族や、指導教員をは じめとする研究室の方々から多くのご支援をいただいたことを忘れず、それぞれの方への感謝の気持ちを持っていただきたいと思います。

この 数ヶ月の間の話題といえば、それは、ノーベル賞ではないでしょうか。今年も鈴木章先生、根岸英一先生のお二人がノーベル化学賞を受賞されました。これで、 日本人のノーベル賞受賞者は17名になり、そのうち、7名は化学賞です。これは日本のサイエンスの一つの特質かもしれません。ものを発見し、ものを作ると いうサイエンスは、日本が世界に誇れる分野であります。それは、私自身、長く、化学屋として研究生活を送ってきた中での実感でもあります。今回の受賞対象 はクロスカップリング反応の開発というものですが、新聞などでも、この分野は日本に優れた研究者が多数いる分野であるとの報道がありました。本学理事・副 学長の村井眞二先生もそのお一人であります。こうした裾野の広さの上に、今回のお二人の受賞者がいるのだと私は理解しています。一昨年の光るクラゲの研究 で受賞された下村脩先生の業績も、同じように、日本の幅広い天然物化学という裾野の上に立つ巨塔であります。人が人を呼び、また人を呼ぶ。こうして学問分 野は広がり発展していくのでしょう。これが大学というところの、典型的な知の創造と伝承ではないでしょうか。先端科学や、先端科学技術の発展は、このよう に強力で幅の広い背景があって初めてなされていくものだと思います。

皆さんは、それぞれ、大学という知の創造と伝承を使命とする組織の中 で、指導教員と協力しつつ、新しい分野学問に挑戦され、すばらしい成果を挙げられました。最近知った話で、OECDのある機関での議論の中で、「学力」と いう言葉が再定義され、「学力とは、記憶した知識の量ではなく、その知識を活用して問題を発見し、それを解決する能力である。」とされたとのことです。学 力とは単なる知識ではないという主張がここにあります。日本では、これを、「生きる力」とも表現しているようです。皆さんは、本学に在籍している間、学 力、すなわち、生きる力も強化してきたことと思います。ところで、今、産業界などの社会が、大学院の修了生に期待する能力として重要であるとしているの は、コミュニケーション能力です。もちろん、専門の分野での実績があり、先にふれた十分な学力があっての上でしょう。人と人がどう接していくか、どう意思 疎通を図っていくか、これは、サイエンス以前の人間力の問題です。今日ここに学位を得られた皆さんは、学力が保証された免許取り立てのドライバーなのかも しれませんが、この学力のみならず、人間力も、絶えず自らが鍛えていかないと、鈍り衰えてくるものです。本学で育てられてきた皆さんは、これからは、人を 育てる立場に立つことになります。しかし一方、これからも学んでいくという姿勢を持ち続けることも必要です。生涯学習というのは、まさにこうしたことをい うのでしょう。

これまで長い間、サイエンスを発展させてきたのは、主体としての人間と対象としての自然や現象を分ける考え方、また、要素 還元主義と呼ばれるような、複雑な事象をいくつかの単純な要素に分割し、それぞれの単純な要素を理解することで元の複雑な事象を理解しようとする考え方で あります。しかし、今、主体としての人間もサイエンスの対象となる時代であり、また、多くの複雑な現象は、単に要素に分けるだけでは理解し得ないというこ とがはっきりしてきた時代でもあります。さらには、地球や資源の有限性を考えたとき、成長がこれからもずっと続いていくはずもありません。こうしたこれか らの社会の中で、科学者や科学技術者の役割は、これまでと同じであるとは思えません。その意味では、これからの知の創造は、サイエンスだけではなく、文系 的な発想や研究方法も含めた知の統合が必要な時代になってきたといえます。こうした知の統合は、一人で達成することは困難で、異分野との協力体制が必要で す。そのためにも、コミュニケーション能力というものが必要になってきます。皆さんがこれまで身につけてきた学力や人間力をさらに磨き、こうした新しい流 れの中で、科学者としてまた科学技術者として、力強く生きていって欲しいと思います。ノーベル賞の例などにも見られるように、時代を変えていくような大き な仕事は、若いときに、一見無謀な発想の中でしか出来ないのかもしれません。その意味でも、皆さんのこれからの活躍に期待したいと思います。

大学の修了式は多くは3月末、サクラの頃です。しかし、幸運にも、今、事務局棟の玄関前のサクラの花が咲いています。元日桜という種類なのかもしれません。皆さんをサクラの下、送り出せることをうれしく思っています。

本日はおめでとうございました。

                                      平成22年12月22日
                                      奈良先端科学技術大学院大学長 磯貝 彰

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