[プレスリリース]バイオサイエンス研究科分子医学細胞生物学研究室の末次志郎教授らの研究グループが、生理的に重要なイオンを運ぶ通り道TRPV4の新たな制御機構を解明(2014/09/29)

研究成果 2014/09/29

バイオサイエンス研究科分子医学細胞生物学研究室の 末次志郎教授らと、国立大学法人京都大学大学院工学研究科の森泰生教授、高橋重成特定助教、国立大学法人東京大学分子細胞生物学研究所の北尾彰朗准教授、 国立大学法人九州大学生体防御医学研究所の嶋田睦准教授、神田大輔教授の共同研究グループは、生物の細胞膜内にあり、温度や浸透圧に制御されてイオンが透 過する通り道をつくるセンサータンパク質である「TRPV4」というイオンチャネルについて共同研究を行い、このタンパク質が細胞膜に含まれる特定の脂質 に結合することを発見しました。この現象によってイオンチャネルが閉じるという新たな制御の仕組みの一端を初めて解明しました。このイオンチャネルの変異 は筋萎縮症や構音障害や呼吸筋麻痺などの病気との関連が指摘されていますが、研究では特定の脂質と結合する力が弱まっていることもわかり、病気の原因の解 明や創薬にも役立つと見られます。

TRPV4は、細胞膜の内外のイオンの濃度差によってイオンを透過させるイオンチャネルであり、低浸透 圧や温度によってチャネル活性が制御されていることが知られています。また、筋肉の病気である筋萎縮症や構音障害や呼吸筋麻痺を特徴とするシャルコーマ リートゥース病(CMT)に罹患しやすい家系の一部ではそのアミノ酸配列に多数の変異が報告されています。しかし、TRPV4チャネルは細胞膜で機能する にもかかわらず、細胞膜に含まれるリン脂質による制御は明らかではありませんでした。

今回、われわれはTRPV4分子を構成する「アンキ リンリピートドメイン(領域)」というアミノ酸の繰り返し配列部位が、細胞膜に含まれるリン脂質「PI(4,5)P2」と結合することを明らかにしまし た。これは、PI(4,5)P2の一部を構成するイノシトール3リン酸(IP3)とアンキリンリピートドメインが結合した状態の共結晶を用い、3次元構造 を調べるX線結晶解析という手法や生体高分子の挙動を推測する分子動力学計算の結果をもとに、PI(4,5)P2結合サイトの候補を同定しました。この結 合部位が変異して脂質と結合しない場合には、チャネルを開く形の活性の増大をもたらしました。また、筋萎縮症やCMTにおける変異したTRPV4のいくつ かで、脂質結合活性の減弱が認められました。このことはTRPV4とPI(4,5)P2の結合は、チャネル活性を負(閉じる形)に制御し、筋萎縮症や CMT疾患においては、この制御が失われていることを示唆すると考えられます。

今回の成果は、最先端次世代研究開発プログラムの研究テー マ「細胞膜メゾスケール構造構築とがん形成機構」(研究者:末次志郎)の一環として行なわれたもので、成果の詳細は英国の学術雑誌『Nature Communications』オンライン版9月26日号に掲載されました。

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