平成29年度入学式を挙行(2017/04/05)

イベント報告 2017/04/07

 4月5日(水)、ミレニアムホールにおいて平成29年度入学式を挙行しました。

 本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、科学技術に高い志を持ち、かつ、各々の研究分野に強い興味と意欲を持った将来を担う者の入学を積極的に進めており、このたび、420名の新入生を迎えました。

 当日は、奈良県 一松旬副知事、生駒市 小紫雅史市長、公益財団法人国際高等研究所 長尾真所長、公益財団法人奈良先端科学技術大学院大学支援財団 中村茂一専務理事、奈良先端科学技術大学院大学同窓会 駒井章治会長を来賓に迎えました。また本学入学式では恒例となった茂山家による狂言演能(大蔵流狂言『口真似(くちまね)』)を行い、奈良の伝統芸能で盛大に新入生の門出を祝いました。

【入学者数】

(博士前期課程)

  情報科学研究科     135名(うち留学生5名)

  バイオサイエンス研究科  131名(うち留学生2名)

  物質創成科学研究科   94名(うち留学生2名)

  計              360名

(博士後期課程)

  情報科学研究科      29名(うち留学生8名)

  バイオサイエンス研究科   16名(うち留学生2名)

  物質創成科学研究科   15名(うち留学生2名)

 計                 60名

 ◆総計 420名(うち留学生21名)

【学長式辞】

 本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された360名の皆さん、また、博士後期課程に入学・進学された60名の皆さん、本学200名の教員、150名の職員を代表して歓迎いたします。また、新入生のご家族の方々にも、お祝いを申し上げます。

 今日の新入生の皆さんの中には、世界10ヵ国からの21名の留学生諸君が含まれています。母国を離れて、本学で学ぶことを決意された皆さんを、心から歓迎いたします。皆さんが入学されたことにより、本学に在籍する留学生は、世界28ヵ国からの212名となりました。本学は、近い将来、世界40か国以上から300名以上の留学生を受け入れ、約60の全ての基幹研究室に留学生が在籍する教育研究環境を実現することを大学の基本的な目標の一つに掲げていますが、これが現実に近づいていると感じています。

 本学は昨年、創立25周年を迎えました。まず、本学が設立された経緯を話しておきたいと思います。奈良先端大の創設にあたって、平成3年8月に取りまとめられた構想には、本学の研究に関する使命について、以下のように述べられています。

 「先端科学技術分野は、広範な学際的広がりを持つこと、基礎研究における全く新たな展開が見られること、しかもその展開が極めて急速であること、基礎研究における新しい知見が、極めて短期間のうちに技術開発につながっており、また技術の進歩が、これらの基礎研究の基盤としてその進展を可能にしているなど、いわゆる科学と技術との一体化が、他の分野以上に顕著であること、等の共通の特色を持っている。したがって、これらの分野においては、従来の学問分野の枠を越えて、学際的な基礎研究の推進が極めて重要である。」

 また、教育に関しては、以下のように述べられています。

 「先端科学技術分野の急速な進展に伴い、これらの分野の研究開発を担う研究者、技術者の組織的養成が、学術研究面でも産業経済面でも大きな課題となっている。特に、これらの分野においては、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度な基礎力を持つ多様な人材を養成することが必要である。」

 すなわち、本学は、当時、急速に発展し始めた情報・バイオ・物質という先端科学技術分野において、工学・理学・農学・医学等の従来の学問分野の枠を越えた学際的な、そして科学と技術が一体化した研究活動を展開し、それを背景に、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる人材を育成するために設立されたのです。

 現在の本学のミッションには、「世界を視野に入れる」というキーワードが付け加わっていますが、創設の趣旨は、現在でも、社会から強く求められているものであり、先駆的なものでした。

 そして、大学、研究所、民間企業等で活発な研究活動を展開していた、多様な背景を持つ気鋭の研究者が結集し、高度な研究活動とそれを背景にした組織的な大学院教育を実施することにより、これまでに、7,265名の博士前期課程修了者、1,402名の博士後期課程修了者を世に送り出してきました。

 こうした本学の研究教育活動については、客観的な数値指標でも、また、文部科学省による国立大学の教育研究実績の評価においても、極めて高く評価されてきました。例えば、文部科学省は、実績のある大学の研究力を一層強化するために、平成25年度から、研究大学強化促進事業として、全国で22機関を支援していますが、奈良先端大はその一つに選ばれています。

 さらに、かつての我が国の大学はともすれば視野が国内に限られていましたが、現在、世界の将来を見据えて、世界の方々を受け入れ、日本の科学技術と社会を知ってもらい、また、日本人学生も世界における科学技術への要請と世界各国の社会を知ることができるよう、大学のグローバル化を進めることが社会から強く求められています。そのため、文部科学省では、平成26年度に、我が国の国際化を牽引する大学を積極的に支援するスーパーグローバル大学創成支援事業を開始しましたが、本学は、その支援対象にも選ばれています。研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成事業の両方に選定されている大学は全国で17大学だけです。皆さんは、研究力と教育力において、我が国トップレベルの大学の一員となったことを誇りにするとともに、そのチャンスを最大限に活用して、自身のキャリア形成に活かしていただきたいと思います。

 さて、先に述べた本学の教育研究のミッションと密接に関係することですが、現在の科学技術は大きく変貌しつつあり、我々は科学技術の大変革の時代に生きていると言えます。

 科学技術の最近のキーワードは、主に情報科学に関連すると思われている人工知能(AI)、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)です。コンピュータ、センサ、ネットワークの高度化によって、車を始め、あらゆるものが、常にインターネットに接続されることによって全世界がリアルタイムに繋がれ、世界の様々なデータを一体的に活用することが可能な時代を迎えています。その結果、必要なモノ・コトを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供でき、社会の様々なニーズに対し、きめ細かく、かつ、効率良く対応できる「超スマート社会」とでも呼ぶべき社会が展望されています。

 このような社会基盤の変化は、情報科学の分野にとどまらず、すべての分野において研究の方法論やその適用領域に大きな影響を与えつつあります。例えば、バイオサイエンスの分野では、ゲノムDNAの塩基配列解析技術や細胞活動のイメージング技術等の革新により、ヒトを含めた多様な生物の様々な細胞活動、生物活動について、膨大な情報を得ることが可能な時代になり、ビッグデータバイオロジーという情報科学と密接な融合領域が生まれています。

 また、物質創成科学の分野でも、マテリアルズインフォマティックスという情報科学との新しい融合分野が生まれつつあり、新しい物質の創成を目指して、人工知能を活用した、分子や物質の設計の効率化等への期待が高まっています。さらに、情報科学における医療データベースの構築とバーチャルリアリティや拡張現実を応用した遠隔操作技術の発展、物質創成科学における素子の微小化による生体埋包型デバイスや柔らかい生体適応材料の開発、バイオサイエンスにおける先端発生生物学や細胞生物学の進展等、3領域を結びつけることで、最先端医用工学の展開も期待されています。

 このように、科学技術の大変革の中で、先端科学技術分野は、本学の基盤である情報・バイオ・物質の3領域にまたがる融合領域への展開が顕著になっています。そこでは当然、これらの融合領域の研究者・技術者が求められることになります。

 科学技術の大変革は、研究にとどまらず、人間と社会に大きな変化をもたらすと言われています。代表的なものが、コンピュータの能力が人間を超える、いわゆる、「シンギュラリティ」への到達です。

 これは、レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)によって提唱された現象で、技術的な特異点あるいは限界点とも呼ばれますが、シンギュラリティが近づくと、それまで存在していた職業の多くがなくなり、新しい職業が出現するという予測もあります。シンギュラリティへの到達が2040年代頃との予測が正しければ、今日入学された皆さんは、その時、社会を牽引する中核的な世代になっているはずです。

 このような、社会の変革と先端科学技術分野の変化を見据えて、本学は、平成30年度には、現在の3研究科体制から1研究科体制に移行して、融合領域の教育プログラムを抜本的に強化する予定です。皆さんは、これまでの学修の場を離れて、希望を持って本学に入学されたと思います。これから、各研究科での研究室の紹介等を経て、配属研究室を決めることになりますが、今までの知識や経験にとらわれることなく、足を大きく前に一歩踏み出すつもりで、新しい可能性に挑戦して下さい。本学のキャッチコピーは、「無限の可能性、ここが最先端」です。

 将来、1つの専門分野の知識やスキルに固執するのではなく、その分野で修得した方法論を他の分野に適用することによって、新しい分野の開拓に挑戦し、シンギュラリティを力強く突破するために、本学で、その基礎を養っていただきたいと思っています。

 最後に、皆さんには、健康で楽しい学生生活を送って欲しいと思います。皆さんは本学で新たに多くの人に出会うはずです。そうした出会いを大切にし、ネットワークを広げていくことは、皆さんの学修・研究活動の幅を広げるだけでなく、これからの人生を支える一生の財産になるはずです。

 皆さんの有意義な学生生活とそれを通した大いなる飛躍を期待して、式辞とします。

 入学おめでとうございます。

平成29年4月5日
奈良先端科学技術大学院大学長
横矢直和

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