〔プレスリリース〕持続可能資源である木質バイオマスの本体、 リグノセルロースの生合成モデルを25 年ぶりに刷新 ~ 産業利用の用途に即した質的改変技術の基盤開発へ ~

研究成果 2018/10/19

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 植物代謝制御研究室の出村拓教授、大谷美沙都助教らの研究グループはブリティッシュコロンビア大学(カナダ)との共同研究により、陸上で得られる最大の持続可能な次世代型資源として研究開発が進む木質バイオマスについて、その本体である「リグノセルロース」という高分子混合物の作られる過程が従来の定説とは異なることをつきとめ、その生合成モデルを25年ぶりに刷新しました。リグノセルロースは、繊維やパルプなどに使われる「セルロース」、さまざまな糖原が得られる「ヘミセルロース」、香料や接着剤などの開発が進む「リグニン」の3成分で構成されます。これまで、最初に主成分のセルロースが蓄積され、それに依存して他の2成分が蓄積されるとなっていましたが、出村教授らは、セルロースが作られない変異体の解析から、この3成分は初期の段階でそれぞれ独立して蓄積されることを実証しました。産業利用の期待が高まる木質バイオマスは、成分の分離抽出が困難などの課題がありましたが、この成果により用途に応じた効果的な質的改変技術の基盤開発が期待されます。

 リグノセルロースの生合成の詳細については、植物培養細胞から木質細胞への分化を誘導する実験系を使った研究や分子遺伝学的な研究によって大きく進展してきました。それらの成果から、これまでに、リグノセルロースの生合成の際には、最初にセルロースが木質細胞の細胞壁に堆積的に蓄積し、その後、ヘミセルロースおよびリグニンがセルロース依存的に細胞壁に蓄積する、というモデルが1990 年前後に提唱され、広く受け入れられてきました。

 そこで、本研究では、培養細胞から木質細胞を分化させる実験により、セルロースを生合成するために必要な酵素の遺伝子が変化し、酵素の活性が失われた変異体「baculites(バキュリテス)」を新たに単離し、その詳細解析を行いました。その結果、木質細胞分化時にセルロース生合成が起こらないbaculites 変異体においても、ヘミセルロースやリグニンの細胞分化初期の蓄積が起こっていることを見出しました。さらに、ヘミセルロースとリグニンの蓄積パターンは細胞の骨格をなす繊維状の微小管のパターンに直接的に依存していること、細胞分化中期以降のヘミセルロースおよびリグニンの蓄積は、従来言われていたとおりセルロースの存在に大きく依存すること、も明らかにしました。これらの結果は、リグノセルロースの生合成初期では、セルロースとヘミセルロース、リグニンの蓄積は独立して制御されていることを示しており、従来のリグノセルロースの生合成モデルを大きく修正する成果です。

 この成果は米国の植物生理学会の学会誌であるPlant Cell 誌オンラインサイトに日本時間平成30年10 月19 日(金)午前6 時付で掲載されました。

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