〔プレスリリース〕チオ硫酸(硫黄化合物)を細菌の体内に取り込む運び屋タンパク質YeeEの構造を解明 ~システインの発酵生産向上に期待~

研究成果 2020/08/27

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域構造生命科学研究室の塚﨑智也教授、田中良樹助教、吉海江国仁研究員、竹内梓(博士前期課程2年)、市川宗厳助教らは、ストレス微生物科学研究室の高木博史教授、構造生物学研究室の箱嶋敏雄教授、味の素-ジェネティカ・リサーチ・インスティテュート社(在モスクワ)の野中源主任研究員、東京大学定量生命科学研究所の森智行助教等との共同研究により、細菌がアミノ酸合成に利用するチオ硫酸という化合物を体内に取り込む際に、運び屋となる膜タンパク質(YeeE)の構造を世界で初めて解明しました。さらに、取り込みの仕組みについて新しい分子メカニズムを提唱しました。チオ硫酸は、細菌の体内でシステインなど高付加価値のアミノ酸の合成に使われるので、発酵生産への応用が期待されます。

 細菌には硫黄源としてチオ硫酸を取り込む機構があります。今回は、チオ硫酸の取り込みに特化した膜タンパク質YeeEを同定しました。このタンパク質は生体膜の中にあり、詳細構造は不明だったため、X線結晶構造解析という手法によって、輸送のときの結合状態であるYeeEとチオ硫酸イオン複合体について、その結晶構造を2.5 Å分解能という高分解能で決定しました。

 その結果、YeeEは、これまでのタンパク質には例がない折りたたみ構造をしており、細胞の内側と外側にくぼみをもつ砂時計型の構造をとっていました。また、複合体の結晶構造は、細胞外側のくぼみにチオ硫酸が結合している状態であり、この状態はチオ硫酸を輸送する初期の段階を示していると考えています。さらに、X線結晶構造解析の電子マップ、分子動力学計算によるシミュレーションなどによって、推定輸送経路に沿ってチオ硫酸が、保存されたシステイン残基と過渡的に相互作用しながら取り込まれていくモデルを提唱しました。このYeeEの詳細構造の情報は、細菌によるシステイン発酵生産研究の基盤を提供するもので、今後の展開が期待されます。

 システインには活性酸素を減らす抗酸化能があることから、医薬品や化粧品、食品などの工業原料としても広く用いられています。近年、微生物による発酵生産が工業化されており、さらなる生産性の向上が望まれています。

 この研究成果は、米国東部時間(夏時間)の2020年8月26日(水)午後2時(日本時間2020年8月27日(木)午前3時)付で、Science Advances(サイエンス・アドバンシス)に掲載されました。

NEWS & TOPICS一覧に戻る