FEATURE

産学官の対話で「共感」を生む

2026年4月27日、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と沖縄科学技術大学院大学(OIST)の共同プロジェクト「外国籍博士人材の採用・育成サロン(TRI-PhD SALON)」キックオフシンポジウムが開催されました。産学官の垣根を越え、高度な専門性を持つ外国籍博士人材が日本の産業界でいかに活躍し、定着できるかという熱い議論が交わされた当日の様子を詳細レポートします。

【開会の辞】ボトムアップから生まれた「共感」のプラットフォーム

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)教育推進機構キャリア支援部門 特命助教
谷口直也 氏(TRI-PhD SALON代表)

シンポジウムは、本サロン代表を務めるNAIST特命助教の谷口直也氏による開会挨拶で幕を開けました。このプロジェクトが組織の上意下達ではなく、自身の現場での強い想いとOISTプカあや氏との意気投合から生まれた「ボトムアップによる取り組み」であることを強調しました。
谷口代表は、学生時代に共に研究に励んだインド人留学生との思い出を振り返り、「純粋で真面目な留学生たちの姿を社会に届け、正面から肯定したい」という原点を語りました。また、「説得ではなく共感を」大切にし、あらゆるステークホルダーと寄り添いながら共に新しい未来を作っていきたいと、熱意溢れるスピーチを行いました。

【来賓挨拶】イノベーションを支える「個人の情熱」と「産学官連携」

続いて、行政・公的機関の立場から、サロン設立の祝福と本取り組みへの大きな期待が寄せられました。

独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)知的資産部 部長
齋藤健児 氏

イノベーションの過程においては、個人の思いや情熱が極めて重要であり、外国籍博士人材が持つ多様な視点や国際的なネットワークは日本社会全体に新たな価値をもたらす貴重な財産であると述べました。産学官が対話を通じて共感を生み、共に環境を作り上げていく重要性を指摘しました。JETROでは、日本企業の持続的成長と地域の活性化に貢献するため、博士人材を含む高度外国人材の採用・育成・定着までを一貫して支援されており、伴走型支援や国内外の教育機関との連携を通じて企業の持続的な成長と発展に尽力されています。

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 参事官補佐
久間木寧子 氏

2026年3月に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画において「産学官連携による若手研究者を始めとした人材育成の強化」「企業における博士人材の活用促進」「先端科学技術分野における国際頭脳循環の推進」が掲げられていることに触れ、本サロンがこうした方向性に沿う取組であり、多様なバックグラウンドを持つ優秀な博士人材に、我が国を選んでいただくことは、我が国の科学技術・イノベーション推進において極めて重要な意義を持つものと確信していると述べました。本サロンは内閣府が主導する大学支援フォーラムPEAKSと連携しており、これまでのPEAKSでの活動がサロン設立にも大きく寄与いたしました。

【基調講演】Power of Diversity -多様性が生み出す「共創」の力-

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)学長 
塩﨑一裕 氏

NAIST学長の塩﨑一裕氏による基調講演「Power of Diversity ― 多様性が生み出す共創の力」では、自身の米国での約20年にわたるキャリア経験に基づいた深い洞察が語られました。

塩﨑学長は、米国での生活を自身の視点や価値観を一変させた「ゲームチェンジャー」であったと振り返り、多様な国籍のメンバーと切磋琢磨した経験が現在の礎になっていることを紹介しました。また、元NAIST助教授であった山中伸弥氏のiPS細胞の誕生背景には、異分野の研究者間の交流があったエピソードを交え、「イノベーションとは既存技術の新しい組み合わせ(ニューコンビネーション)から生まれる」というオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによるイノベーションの定義を示しました。
博士人材の本質について、「研究活動を通じて多面的な課題解決スキル(論理的思考、仮説検証力、コミュニケーション力など)を叩き込まれたリーダー候補である」と定義し、桃太郎の仲間の多様性を例えに、互いの違いを尊重し連携することこそが「共創」のエネルギー源になると説きました。

【事業説明】サロン活動計画や会員参画状況について発表

沖縄科学技術大学院大学(OIST)プロフェッショナルキャリア開発スペシャリスト
プカあや 氏 (TRI-PhD SALON副代表)

続く事業説明では、本サロン副代表を務めるOISTプロフェッショナルキャリア開発スペシャリストのプカあや氏が登壇しました。プカ副代表は、本サロン設立の背景と目的、主なアクションプランなどについて説明を行い、運営体制や大学・企業からの会員参画状況についても発表しました。産学官による事例共有や採用・育成研修、英語版キャリアフェア等を通じて、国籍や言語の壁を越えて博士人材の才能が解き放たれる社会の実現と、持続的なエコシステムの構築を目指すと述べました。

【紹介講演】全国の会員大学における博士留学生支援の最前線

休憩後に行われた「紹介講演」では、大阪大学、筑波大学、広島大学、北海道大学の4大学が、各大学における外国籍博士人材の育成やキャリア支援の先導的な取り組みを発表しました。各大学が長年培ってきた知見や、外国籍博士人材が日本社会で羽ばたくための具体的な支援策が披露されました。

大阪大学 国際機構国際教育交流センター 准教授
姚馨 氏

博士課程に1,000名以上の留学生を抱える現状を報告し、2026年度より始動する「高度外国人材キャリア形成支援プログラム(CDSP)」を紹介しました。本プログラムでは、日本語教育・キャリア教育・インターンシップを3本柱として提供。スキルを可視化する「修了証」や「オープンバッジ」の付与を通じ、留学生の専門性が日本の産業界で正しく評価され、質の高いマッチングが実現する環境づくりを推進していくと述べました。

筑波大学 ヒューマンエンパワーメント推進局 特任助教
福嶋美佐子 氏

筑波大学では博士課程学生の約3割を留学生が占め、115の国と地域から受け入れる。同大では、学外の研究機関や企業と連携した「連携大学院・協働大学院方式」や、若手研究者と企業を直接つなぐマッチングシステム「PhD×FUTURE.」を通じ、専門性を社会実装へつなげる支援を強化しています。また、日本e-Learning大賞 文部科学大臣賞を受賞した留学生向け就活支援コンテンツ「就活JUMPスタート」などを活用し、日本特有の就職活動への適応と、グローバルなキャリア形成を強力に後押ししていると述べました。

広島大学 教育本部 主幹UEA
岩永誠 氏

広島大学では博士課程学生の約4割を留学生が占める現状を報告し、「持続可能な発展を導く科学」を実践する世界的大学院教育拠点の形成について発表しました。特に、大学と自治体が一体となって地域課題の解決と大学の進化を目指す「Town & Gown構想」を基盤とし、企業等の実務家からなる「Industry Advisory Board」を設置することで、産学官が連携して博士人材のキャリアパスを地域社会や産業界へと広げる先導的なモデルを提示しました。こうした一連の取り組みは、広島大学が代表機関として構築した「未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)」をさらに発展させ、中四国エリア全体の産学官連携へと広く展開します。

北海道大学 教育イノベーション機構 キャリアデザインセンター 博士人材育成ユニット I-HoP 特任助教
片垣麻理子 氏

北海道大学では博士課程学生の34.5%を留学生が占める現状を踏まえ、博士人材の専門性と適応力(課題発見力、発想力、リーダーシップなど)を兼ね備える人材育成の取り組みを発表しました。特に、北海道大学独自の取組みとして「赤い糸会」「CAREER LINK MEETUP」などの企業と博士の交流機会を提供。また、支援を国籍で分けることで生じる「学び合いの欠如」や「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の再生産」という課題を指摘。国籍ではなく、課程別・言語別に設計されたキャリア支援プログラムを展開すること、そして多様な学生が共に高め合いながらキャリアを描ける支援体制の重要性を強調しました。

【特別セッション】From OIST to Industry - グローバル博士人材はいかに価値を創造するか

シスメックス株式会社 Hematology Business Development Associate
Ivan Mbogo(アイバン・ンボゴ)氏

特別セッションでは、OIST修了生のIvan Mbogo氏(シスメックス株式会社 ヘマトロジー事業推進部Associate)が登壇し、日本の企業で実際に活躍している当事者の視点から、日本でのキャリア形成における実体験が語られました。OISTで博士号を取得し、現在企業で活躍するIvan氏は、博士課程で培われる問題解決能力や適応力は、ビジネスにおいても直結する高度な「キャリア・トレーニング」であったと強調しました。自身の経験から、研究室外での地域交流も社会適応に不可欠であったと振り返り、学生には「自らの価値を信じること」、企業には専門性だけでなく「能力(Capability)」そのものを採用し、「統合(Integration)」を支援することの重要性を訴えました。

【パネルディスカッション】「日本社会は、外国籍博士人材をどう活かせば国際競争力を高められるか」

パネルディスカッションの詳細については、こちらの記事をご覧ください。

【総評・閉会挨拶】共創のスタートライン

シンポジウムの最後に、総評としてNAIST理事のベントン・キャロライン氏、閉会挨拶としてOIST研究科長のトーマス・ブッシュ氏が登壇しました。「対話を止めることなく、共に前へ進もう」と力強く閉会を宣言しました。

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)理事  
Caroline F. Benton(キャロライン ベントン) 氏

かつて自身が外国籍博士学生として日本で学んだ経験を振り返り、日本の大学が抱える構造的な課題を指摘しました。海外から見て「留学・奨学金制度や学費等の情報へのアクセスの難しさ」や「あらゆる手続きが日本語前提であること」が、依然として大きな障壁になっていると吐露。その上で、日本国内における「なぜイノベーションに博士人材が必要なのか」という本質的な問いに対する危機感の薄さに警鐘を鳴らしました。こうした現状を打破するためには、産学官が密に連携して共通認識を醸成し、日本全体の成長戦略として捉え直すことの重要性を強く示唆しました。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)研究科長  
Thomas Busch(トーマス ブッシュ)氏

外国籍博士人材が日本で真の力を発揮するためには、採用経路の改善や言語サポートといった「実務的支援」の拡充に加え、リスクを恐れず新しい考え方を取り入れる「マインドセットの変革」が不可欠であると説きました。「グローバルな才能の受け入れは日本の未来に不可欠」と強調し、大学やセクターの枠を超えたこの勢いを、よりダイナミックで競争力のある日本を築く原動力にしていこうと呼びかけ、幕を閉じました。

今回のシンポジウムを通じて、外国籍博士人材の活用は単なる「人手不足解消」ではなく、日本がイノベーションを起こし世界で戦うための「組織変革の起爆剤」であることが再確認されました。産学官が手を取り合い、多様な才能が輝く新しい日本の産業界へ。TRI-PhDサロンの挑戦は、今ここから本格的に始まります。

シンポジウム後の懇親会の様子については、こちらの記事をご覧ください。

今後のTRI-PhDサロンの活動に、どうぞご期待ください。

TRI-PhD SALONでは、企業・団体会員様、行政会員様(都道府県庁など)を積極的に募集しております。
少しでも私たちの想いに共感してくださる組織の方がおられましたら、下記よりお問い合わせください。

【お問い合わせ先】
奈良先端大キャリア支援室
career(ここにアットマーク)ad.naist.jp

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