中内大介特任准教授が、
文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞
医療診断やセキュリティの非破壊検査に欠かせない放射線を光に変換する材料(シンチレータ)を研究する量子物理工学研究室の中内大介特任准教授が、「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞」を受賞しました。化学安定性の高い酸化物材料の開発では、世界最高の発光量を達成するなど、放射線を用いた検査技術の精度向上と用途拡大につながる大きな可能性を秘めています。中内特任准教授は「将来は生体内での近赤外線による光治療や、体内埋込型デバイスによる先端医療の生体イメージング、さらには原子炉の廃炉作業や環境遠隔モニタリングへ応用を期待したい」と、研究成果の実用化に向けた明確なビジョンを思い描いています。
科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞は、高度な研究開発で目覚ましい成果を上げた40歳未満の若手研究者を対象とするものです。中内特任准教授は「長波長発光シンチレータを材料設計と機能評価に関する研究」のテーマで、数多い応募者の中から受賞者の一人に選ばれました。初めての応募での快挙に、「まさか自分がもらえるとは思いませんでした。受賞した今ではむしろ、プレッシャーを大きく感じています」と、驚きとともに身が引き締まる思いを語ります。
私たちの身近にあるCT(コンピューター断層撮影)や空港の手荷物検査はX線、がん検査PET(陽電子放射断層撮影)はガンマ線という放射線を利用して内部の様子を撮影しています。この透過した放射線を受け止めて瞬時に光を放つ蛍光体がシンチレータです。シンチレータは光検出器と組み合わせ、放たれた光を光検出器で電気信号に変換することで、私たちはデジタル画像として内部の様子を確認できます。中内特任准教授は希土類(レアアース)の一種であるテルビウム(Tb)を主成分とする黄色発光のシンチレータを開発し、潮解性のない酸化物材料として世界最高の発光量を実現しました。加えて、赤色と近赤外の長波長域で光る希土類イオンを網羅的に調べ、従来の材料にない長波長域でも、優れた発光効率を維持するシンチレータの開発に成功しました。
これまでのシンチレータは紫外から青色の光を放つ材料が主流でした。これは一般的な光検出器(光電子増倍管)が青色の光を最も感度よく捉えられるからです。しかし、近年の半導体技術の進化により緑色から赤色、さらに近赤外の光まで高感度でとらえられるSi-APD(シリコンアバランシェフォトダイオード)やInGaAs(インジウムガリウムヒ素)センサーのような光検出器が登場してきました。光検出器がこうした長波長域で進化しているなら、シンチレータの発光もそれに合わせれば応用先を広げられるのではという着眼点が研究の始まりです。
中内特任准教授が研究に打ち込む原動力は、「だれも合成したことがない組成の材料を自分の手で創り出せる純粋な面白さ」だと説明します。シンチレータの歴史は長く、すでに数多くの単結晶材料が開発されてきました。そのため、これまでの研究の多くは既知の組成をもとに、添加物の量を微調整する最適化が中心となりがちでした。これに対し中内特任准教授は、元素の組み合わせそのものを変えてしまう未知の領域に挑戦してきました。世界最高の発光量となったTbにしても、本来は発光効率が落ちるとして敬遠されていた元素でありながらあえて主成分として試し、セリウム(Ce)への効率的なエネルギー移動を利用することでブレイクスルーを可能としたのです。実験では特定の元素を組み合わせればこれまでにない有効な発光をするという仮説からスタートしますが、狙い通りに光ってくれるのはまれです。中内特任准教授は「思い通りに光らない方が圧倒的に多いです。ただ、その失敗は光らないメカニズムを解明する重要なデータとなり、知見や経験値が増えていきます」と説きます。
実用化の出口として期待するのは、医療では光治療や生体イメージングです。赤色から近赤外の長波長域の光は筋肉や血液などの生体組織を非常に透過しやすいという特徴があるため、長波長発光のシンチレータが効果を発揮します。一方、放射線量が極めて高い原子炉の廃炉作業や環境遠隔モニタリングは、計測器の半導体や電気回路が放射線によって損傷してしまう課題があります。その解決策としてシンチレータと光ファイバーによる遠隔モニタリングが有望視されており、光ファイバー内での光の吸収を抑えて長距離伝送するには、透過率の高い近赤外域で発光する長波長発光のシンチレータがより有利となります。
中内特任准教授は、今回の受賞テーマにつながる、ひとつの先駆けとなった印象的な思い出を語ります。博士論文の研究テーマとして、高価なTbを主成分とするガーネット結晶の開発を志した時のこと。レアアースの中でも特に高価なTbは試薬瓶一つで数十万円もする材料で躊躇しましたが、当時の指導教員であった柳田健之教授に相談すると「やってみたらいいよ」と快諾してくれて、その一言がきっかけで後に産学共同研究まで発展し、特許登録という大きな成果に繋がったのです。自らも教職に就いた今、学生の自由な発想や好奇心を、予算を理由につぶしたくないと思っています。かつて自分がしてもらったように、学生たちがのびのびと研究に打ち込める環境をしっかり整えてあげたいと考えており、学生には「先の見えないワクワク感」を、失敗を恐れず思い切り楽しんでほしいと願っています。

