ホーム  > メッセージ  > 研究者インタビュー  > 研究者紹介 vol.5

研究者紹介 vol.5 バイオサイエンス研究科 機能ゲノム医学研究室(石田研) 福田七穂 助教

2005年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科修了。博士(生命科学)。理化学研究所 脳科学総合研究センターに勤務後、2008年から2013年まで夫と共にカロリンスカ研究所(スウェーデン)に留学。この間に男児二人を出産し、それぞれ半年の育児休暇を取得した。日本学術振興会特別研究員等を経て2015年より現職。専門は分子細胞生物学。研究テーマは神経細胞でのmRNA制御について。

なぜ研究者になったのか

もともと生き物がどうやって生きているのかということに興味があって、大学は理学部に進学しました。学部の後は、修士課程で研究を少し経験してから就職をしたいと思っていましたが、頂いた研究テーマにとても興味を持っていましたし、苦労していた実験系がようやく動き始める頃に修士課程が終わってしまいそうな見通しとなって、その研究テーマから離れがたい気持ちになりました。そこで指導教官と相談し、もう少し博士課程で頑張らせてもらうことにしました。
博士課程でも大変なことはもちろんありましたが、進学してよかったと思っています。結果的に、修士課程から取り組んで来たプロジェクトを論文2報にまとめ、学位を得ることが出来ました。指導教官や先輩、同輩に教わりながら実験を進め、結果を論文としてまとめる過程で多くのことを学び、自分なりに成長したと思います。

学位取得後は、理化学研究所脳科学総合研究センターで3年間研究をした後、スウェーデンのカロリンスカ研究所に5年間留学しました。留学中の研究成果は今の研究テーマの基になっていますし、色々な国から集まる人達の多様な価値観に触れることで視野が広がりました。この留学経験は、現在、私が研究者であることに大きく影響していると思います。

子育てと研究者としてのキャリア

小学校1年生と保育園年中の二人の子どもがおり、夫は他大学の教員です。夫は大学院の同級生で、理化学研究所から、スウェーデンへの留学、本学への着任までずっと同じ研究機関でそれぞれポジションをみつけて仕事をしてきました。しかしながら、平成28年4月に夫が本学から転任し、別々の生活となりました。単身赴任が決まったのは、私が本学の助教の職に着き、これでしばらくふたりとも同じ場所で落ちついて研究と子育てをやっていけると思った半年後でした。長男が小学校に入るところだったので「このタイミングで?」とは思いましたが、本学の教員としての契約は長くて10年。いつかは移らなくてはいけないし、上のポジションを得ることの難しさは知っていたので仕方がないと思いました。飛行機で移動する距離なので夫が帰ってくるのは月に1回程度ですが、スカイプや電話で毎日コミュニケーションをとっています。

もちろん、できれば家族は一緒のほうがよいと思いますが、キャリア(年齢?)が上がってくればくるほど、夫婦ともに同じ場所でポジションを得るのは難しいのが現状です。私は本研究費や、参画室のアカデミックアシスタント制度など大学からサポートを受けています。また、研究室の石田靖雅先生も子育てをしながら研究をすることへの理解があります。石田先生は、保育時間外にイベントを入れるのを避けるなど、いつもご配慮下さいますし、先日子どもの授業参観で仕事を抜けるときは、「うらやましいです、楽しんできてください!」と言って送り出して下さいました。また、有り難いことに週末に仕事をしなくてはいけない時や、出張の時は、奈良県内に住んでいる夫の両親が助けてくれます。このような点を考えると、別々に頑張っている他の研究者夫婦よりも私は恵まれた状況にあるのかもしれません。

ワーク・ライフバランスと研究時間の確保のために

スウェーデンで子ども二人を出産し、子育てをしながらの研究生活を経験するなかで、ワーク・ライフバランスについてよく考えるようになりました。ひとつ日本でも真似をすると良いと思ったことは、システムの効率化です。スウェーデンでは、分業や電子システムの導入によって、研究者の事務的な仕事量が少なかったように思います。多くの書類は入力済みのフォームを確認してからサインするだけでしたし、物品購入の伝票処理も確認のクリックのみ、機器の予約もPC上で出来ました。一方で日本では、書類にわざわざ捺印して郵送しなくてはならなかったり、定期的に提出するフォームに一から全部書かなくてはいけなかったりします。こういった面は効率化を図り、研究者がもっと研究の時間を確保できるようになれば、ワーク・ライフバランスの向上につながると思います。

研究者を目指す人たちへ

研究職は、日々努力をして、成果が出ればようやく次のチャンスを与えられるという点で、プロスポーツ選手のような職業です。決して楽な仕事ではありません。特に将来設計が立てづらい点は、子どもを持つと重くのしかかって来ます。その一方で、生命科学の研究は面白いものです。実験で仮説が立証されるような結果が出たらすごく嬉しいし、細胞をきれいに染められただけでも単純に感動します。研究プロジェクトは自分の子どものように感じられて、遊びに行く時間をとられても苦になりません。このように自分が打ち込めるものを今仕事にできていることに感謝しています。

私は、目の前の研究に取り組んでいるうちにひとつひとつ道がつながってきました。なので、学生の皆さんが、研究職の大変さを分かったうえで、それでも研究に興味をもってしまったら、とにかくのめり込んでみたらいいのではないかと思います。興味を持ったことを研究できるのは、とても恵まれたことです。研究は多様な能力を使うものですから、たとえ将来違う道に進むことになったとしても研究に集中した時間は無駄にはならないと思います。

(平成29年3月)

interview content