繰り返す猛暑に植物が適応する仕組みを発見 細胞保護の遺伝子を働かせる機構を発動して維持し、次の 高温に備える 高温耐性の予測と操作による気候変動下の食糧の安定供給に期待

研究成果 2021/06/10

繰り返す猛暑に植物が適応する仕組みを発見 
細胞保護の遺伝子を働かせる機構を発動して維持し、
次の高温に備える
高温耐性の予測と操作による気候変動下の食糧の安定供給に期待

概要

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩崎一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域の山口暢俊助教・伊藤寿朗教授、東京大学の角谷徹仁教授、龍谷大学の永野惇准教授、九州大学の佐竹暁子教授らの共同研究グループは、植物が繰り返しやってくる高温の刺激に適応した上で、あらかじめ次の高温刺激に備えておくという巧妙な生体防御の仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。さらに、その仕組みの起動を予測し、有効に操作することにも成功しました。この成果により、植物が高温の環境に耐える能力を人為的に調節できるようになれば、激しい気候変動の中でも育つ植物が作れ、食糧の安定な供給が期待できます。

 植物は温度や光など気候や環境の変化にあわせて、自身の機能をうまく調節して適応できることは知られています。移動できない植物にとって、周囲の環境の変動に素早く対処できた方が生き残るための有利な戦略になるからです。ただ、植物細胞の核内にあるDNA分子の長い鎖状の塩基配列の順番により記された遺伝情報は、容易に書き換わらないため、環境対応に必要な遺伝情報の部分だけを選択的に優先して使う仕組みが、臨機応変な植物の環境応答に極めて重要であると考えられます。これまでに、高温にさらされると、細胞を保護する熱ショックタンパク質の生成量が上昇することはわかっていましたが、「気温が下がった後でも、しばらくの間は高温に適応した状態が維持されるのはどのような仕組みか?」という疑問が残されていました。

 山口助教・伊藤教授らの共同研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナを使って実験を重ねた結果、DNAを巻き取っているヒストンというタンパク質にメチル基が結合(メチル化)することで、熱ショックタンパク質の遺伝子の発現を抑制しており、高温になるとメチル化が除去されて、その遺伝子が活性化されるという生体防御の機構が働きはじめ、さらに気温が下がった後もその状態がしばらくの間、維持されることを突き止めました。熱ショックタンパク質の遺伝子の発現が抑制されないままなので、連日のように訪れる高温の刺激に速やかに応答できることも明らかにしました。

 さらに日本各地の温度条件に応答した遺伝子の発現の状態を数理的なシミュレーション(模擬実験)で予測し、人工的に操作して高温耐性を付与することにも成功しました。植物の生き残り戦略を知るとともに、植物に対する気候変動の影響を軽減するための対策を講じていくうえでも非常に重要な成果で、2021年6月9日付け「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」(オンラインジャーナル)に掲載されました。

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