〔プレスリリース〕生命の起源説をヒントにして、らせん構造の転写実験に成功 ~左右不斉の分子が生命現象を担った謎の解明へ 紫外光を使った情報記録、半導体高分子の微細回路化へ道~

研究成果 2016/07/06

 物質創成科学研究科高分子創成科学研究室の藤木 道也教授とノル・アズラ・アブダル・ラヒム女史(博士課程3年)は、常温常圧、触媒がない環境で、らせん構造を非らせん化合物に転写するという実験に成功しました。らせん構造を持つ人工高分子(ポリシラン)を光分解性の不斉足場にして、らせん構造を持たない有機高分子(ポリフルオレン)と混ぜるだけで、2:1の一定の割合で超分子を形成したうえ、ポリフルオレン分子がらせん構造に変わり、円偏光という特殊な光を吸収して青色の円偏光を発するという特徴的な性質を示しました。さらに、足場のポリシランを紫外線で分解しても、ポリフルオレンのらせん構造をそのまま保持していました。

 太古の地球で、左右どちらかの光学的な構造を持つアミノ酸などの不斉分子が生命現象を担うようになったという分子不斉による生命起源説にヒントを得た、遊び心の実験でした。今年6月に米国の天文学者が天の川銀河の中心にある巨大な分子雲の中に不斉分子(プロピレンオキシド)を発見して話題を呼んでいますが、今回の実験から、太古の地球のみならず、地球外の天体、星間物質や分子雲にも、生命の源である不斉分子が同様のシナリオで他の分子に不斉構造が転写している可能性が示唆されました。

 一方、応用面では、今回のポリフルオレンなど「パイ共役高分子」といわれる半導体高分子とポリシランを混合するだけで、パイ共役高分子-ポリシラン複合材料が常温常圧、触媒なしに数秒で得られるため、今最も注目されている円偏光発光材料の製造プロセスやコストが大幅に削減できます。さらに紫外光で書込、紫外可視光で読込可能な情報記録媒体(WORM)や、紫外線による露光を使う光リソグラフィーによる半導体高分子の微細パターンの直接形成への応用が可能になります。

 本成果は、高分子科学のトップジャーナルの一つ、Polymer Chemistry(DOI: 10.1039/C6PY00595K)(英国王立化学会, IF 5.5)にWeb版(2016年6月24日)として掲載され、同誌の研究ハイライトとして表紙(裏)に選出されました。

生命の起源説をヒントにして、らせん構造の転写実験に成功

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