光合成と環境適応力の両面強化による次世代エネルギー植物、ヤトロファの分子育種研究開始 ~ 光合成能力を数倍向上 油脂量を増大 世界のエネルギー不足に対応 ~

2008/11/27

【概要】
 作物や樹木など植物が太陽光を浴びて炭水化物や油脂を作り出すというバイオマス(生物資源)の生産性は、光合成が効率よく働き、干ばつ など環境からのストレスへの適応力によって決まります。奈良先端科学技術大学院大学は、これまで国の科学研究費補助金や日産科学振興財団の研究助成などの 支援を受け、植物体内で行われる光合成関連の生理反応を強くする遺伝子を多数取得することに成功し、同大学発ベンチャー(株)植物ハイテック研究所ととも に、これら遺伝子の高度利用を目指してきました。
この度、奈良先端科学技術大学院大学は、植物ハイテック研究所、琉球大学とともに、バイオディー ゼル燃料を多量に生産可能で、食料ではない次世代油脂植物として世界から期待され始めている熱帯植物ヤトロファ(ジャトロファともいう)の光合成能力を数 倍向上させ、高効率にバイオ燃料の増産を目指した「高生産性エネルギー環境植物の分子育種」プロジェクトを、国の科学技術振興調整費・先端技術創出のため の国際共同研究推進プログラム課題として開始しました。海外研究機関として、インドネシアのボゴール農業大学とボツワナ農務省農業研究部が参加し、共同で 現地実証試験を行います。さらに、奈良先端科学技術大学院大学は、日産科学振興財団からヤトロファの環境応答能力強化に向けた研究に継続して研究助成を受 けることとなりました。原油高騰により世界的なエネルギー不足、食糧危機の連鎖が深刻さを増すなかで、食料ではない油脂植物の機能向上を目指すプロジェク トは、画期的で現実的な解決策になると考えられます。国際的にも強力な日本の植物バイオ研究の成果を世界に示す研究にもなるでしょう。

【社会的意義】
地 下資源の枯渇を待たずして次世代エネルギーの確保が地球レベルでの最重要課題になっており、植物バイオ燃料への期待が飛躍的に増しつつあります。油脂植物 であるヤトロファは、作物栽培と異なり手厚い潅漑や施肥を必要とせず、限界耕作地で充分生育するタフな植物です。また、米国のトウモロコシやブラジルのサ トウキビに比べて環境二酸化炭素の低減効率が高く、また(バイオ燃料中のエネルギー)/(生産に要する全エネルギー)の比率がブラジルのエタノール生産に 勝るとも劣らないと期待され、世界的に注目されています。実際にEU諸国や中国はヤトロファを次世代バイオ燃料生産植物としてその栽培にすでに着手してい ます。
奈良先端科学技術大学院大学と同大を中心に設立されたベンチャー(株)植物ハイテック研究所は、これまでのプロジェクトで多くの植物生産力 強化遺伝子を発見してきました。それらの一部は、樹木のモデル植物であるタバコ植物や作物のモデル植物などの光合成や生産性を50%から数倍向上させるこ とが明らかになっています。このプロジェクトでは、これらの生産力向上遺伝子を中心に、ターゲットになる遺伝子が含まれる個体を選抜するヤトロファ分子育 種に利用し、ヤトロファの油脂生産力の向上を目指します。このプロジェクトでは、既存の品種に勝るヤトロファ植物を分子育種し、インドネシアやボツワナ砂 漠などの荒廃地等を緑化しつつ地球規模でのエネルギー問題に対応しようとするものです。

【キーワード解説】
熱帯植物ヤトロファ
  ヤトロファ(ジャトロファとも呼び、学名はJatropha curcas L. 和名はナンヨウアブラギリ)は亜熱帯や熱帯に、降雨量に左右されることなく繁殖する樹木で、その種子は35%程度の油脂を含む。年に数回種子を着け、年間 でヘクター当り1.5-3トンの油脂を生産する。インドやインドネシアでは欧州諸国との共同で、食料生産に競合しないバイオディーゼル燃料の原料植物とし て開発が進んでいる。

文部科学省・科学技術振興調整費(文科省HPより)
科学技術振興調整費は、総合科学技術会議の方針に沿って 科学技術の振興に必要な重要事項の総合推進調整を行うための経費であり、以下の施策であって、各府省の施策の先鞭となるもの、各府省毎の施策では対応でき ていない境界的なもの、複数機関の協力により相乗効果が期待されるもの、機動的に取り組むべきもの等で、政府誘導効果が高いものに活用されるものである。
①優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革
②将来性の見込まれる分野・領域への戦略的対応等
③科学技術活動の国際化の推進

限界耕作地
 降雨量や土壌条件などの条件が、作物の耕作地として適さない土地を限界耕作地(marginal land)という。

環境二酸化炭素の低減効率
  バイオエタノールの場合、米国のトウモロコシからのエタノール生産ではヘクター当り7.2トンのデンプンが生産される。アルコール発酵中にヘクター当りデ ンプン2.4トン分、アルコール精製などのエネルギー源としてデンプン3.84トン分を二酸化炭素として放出し、実質0.96トンの二酸化炭素回収とな る。
 ブラジルのサトウキビの場合は、サトウキビの搾りかすを燃やすエネルギーで水とアルコールを分離するために搾りかすを燃やすことによる大量 の炭酸ガス放出が起こる。計算では、ヘクター当り年間のショ糖生産総量は8.5トンに相当するが、アルコール発酵中にヘクター当りショ糖2.8トン分、さ らにアルコール精製のために搾りかすを燃やすなどしてヘクター当り4.2トン分を二酸化炭素として放出し、実質1.5トンの環境二酸化炭素回収となる。
  バイオディーゼルの一例としての米国のダイズ油ではほとんどエネルギーを必要としないので、ダイズが作った油脂の75%がバイオディーゼルとなる。ヤトロ ファディーゼル油も同様だとすると、現状ではヘクター当り1.3トン、本プロジェクトの目標値達成後では3.6トンの二酸化炭素回収となり、その環境二酸 化炭素の低減効率は相当なものとなる。ヤトロファは一年性作物と異なり多年性樹木であり、根系を含めて数十年にわたって植物体そのものにも炭素貯蔵する。

(バイオ燃料中のエネルギー)/(生産に要するエネルギー)の比率
1000kカロリーの燃料を作るのに、何kカロリーのエネルギーを使ったのかを計算する。米国のトウモロコシの場合で、報告によって異なるが1.3-1.8程度となっている。ブラジルのサトウキビからのエタノール生産では8以上と見積もられている。
バイオディーゼル油では、米国でのダイズ油からの生産では3.7と報告されている。熱帯、亜熱帯地方の非農耕地での栽培を目指すヤトロファでは、(バイオ燃料中のエネルギー)/(生産に要するエネルギー)の比率はその数値の数倍になると予想される。

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