近親交配を回避する受粉の新たな仕組みを解明! ~ペチュニアで動物の免疫系にも似た非自己認識システムを発見進化の謎解明へ~

2010/11/05

【概要】
植物の多くは、虫や風によって運ばれた花粉の中から、自分や近縁の花粉を識別して排除し、種の維持に好ましくない近親交配を防ぐ自家不和 合性と呼ばれる仕組みを発達させている。種の遺伝的な多様性を保つための重要な仕組みでもあるが、機構の詳細についてはまだ未解明な点が多い。
奈 良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)バイオサイエンス研究科細胞間情報学講座の久保健一研究員、円谷徹之研究員、高山誠司教授らは、米国ペンシルバ ニア州立大学のTeh-hui Kao教授らとの共同研究において、ナス科植物のペチュニアが、動物の免疫系によく似た多種類のタンパク質を動員する形の非自己認識システムを利用して近 親交配を回避していることを、世界で初めて明らかにした。植物の進化の道筋を知るうえで貴重な発見であるとともに、受粉のコントロールにより有用な植物の 生産に役立つなど応用面でも期待されている。
これまでの研究により、アブラナ科やケシ科などの植物では、雌しべに届いた花粉が自己の遺伝情報によ るタンパク質を持っているかどうかを認識する独自の仕組みを進化させていることがわかってきた。一方、ナス科やバラ科などの植物では、雌しべがS- RNaseという毒性タンパク質を持ち、それが遺伝情報を伝達する分子を分解していることが古くから知られてきたが、どの様にして自己と非自己の花粉を識 別しているのか詳しい仕組みは判っていなかった。
今回我々は、ガーデニングでもなじみが深いナス科植物のペチュニアから、花粉側で機能する遺伝子 を徹底的に探索した。その結果、ナス科の花粉は、雌しべのS-RNaseの分解能を失くす解毒に関わるタンパク質(SLF)を多数作っていることが明らか になった。さらに、一つ一つのSLFは、何種類かの非自己のS-RNaseを認識するが、これらが多数集まることで全ての非自己のS-RNaseを認識し て解毒できることが明らかになった。
今回の研究により、ナス科の植物が近親交配を回避し、種の遺伝的多様性を維持するための機構として、動物の免 疫系のように多種類のタンパク質を用いて非自己を認識するシステムを進化させていることが明らかになった。病原菌などの非自己の細胞を認識する仕組みは生 物に広く存在するが、本研究は、この様な認識機構をどの様に進化させてきたのかという大きな謎の解明にもつながることが期待される。本成果は、米科学誌 Science(11月5日号)に掲載される(プレス解禁日時:日本時間 平成22年11月5日(金)午前3時)。

【掲載論文】
論文タイトル:Collaborative non-self recognition system in S-RNase−based self-incompatibility
(和訳:S-RNase型自家不和合性における協調的非自己認識システム)
著 者:Ken-ichi Kubo1,*, Tetsuyuki Entani1,*, Akie Takara1, Ning Wang2, Allison M. Fields2, Zhihua Hua2, Mamiko Toyoda1, Shin-ichi Kawashima1, Toshio Ando3, Akira Isogai1, Teh-hui Kao2, Seiji Takayama1
(1奈良先端科学技術大学院大学, 2Pennsylvania Sate大学, 3千葉大学, *第一著者)

論文掲載誌:Science(11月5日号, Vol. 330, No. 6005, Research Article)

本研究は、文部科学省(MEXT)および日本学術振興会(JSPS)からの科学研究費補助金、NAISTグローバルCOEプログラムの助成を受けて成されたものである。

【解説】
ペ チュニアでは、非自己の花粉において毒性を発揮する雌しべ側因子S-RNaseと、この因子を解毒する花粉側因子SLFは、S-遺伝子座と呼ばれるゲノム 上の特定の領域にそれぞれの遺伝子がコードされている(図参照)。S-遺伝子座の種類はナンバーで区別されており、例えばS1を持つ花では、雌しべは S1-RNaseを作っており、これは同じナンバーを持つS1花粉を殺すことから、自家受粉は妨げられる。一方、S1に対応しない非自己の花の雌しべ、た とえばS2やS3の花の雌しべには、それぞれのナンバーのS-RNaseが存在するが、これらはS1花粉のSLFによって解毒できるため、他家受粉された S1花粉は生き残って受精し、種子を残すことに成功する。
すなわち、SLFがS-RNaseを解毒できることが、花粉が雌しべに受け入れられるた めの条件であり、花粉が全ての非自己の雌しべに受け入れられるためには、SLFはナンバーの異なるS-RNaseの全てを解毒できなければならない。しか しながら、これまでSLFは1種類のタンパク質であると考えられており、一方でS-RNaseは非常に多種類存在するため、本当に1種類で十分解毒できる のか疑問視されていた。
今回我々は、SLFは一つの花粉に1種類ではなく少なくとも6種類以上存在することを示した。さらに、3つのSLFを遺伝 子操作によって調べた結果、SLFは自己の(同じ番号の)S-RNaseを解毒できないことと、それぞれが異なる種類の(異なる番号の)非自己S- RNaseを解毒することを示した。我々の結果は、複数存在するSLFのそれぞれが解毒作用を分担し、複数が協調的に機能することで、動物の免疫系のよう に、さらに多種類の非自己由来S-RNaseに対応し、解毒できることを示している。

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