2013/03/01
【概要】
脳内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を適切な場所に伸ばし適切な神経細胞と結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作 る。そのさいに軸索は脳内の道路標識や信号にあたる分子(誘引シグナルや反発シグナル)に導かれて正しい場所へと向かう。しかし、このような分子信号が、 いかにして軸索のナビゲーションを遂行するための駆動力に変換されるのかその仕組みはこれまで解っていなかった。
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:磯貝彰)バイオサイエンス研究科神経形態形成学研究室の 稲垣直之准教授、鳥山道則研究員(現テキサス大学)、情報科学研究科博士課程2年の小沢哲氏、愛知県立大学・情報科学部の作村諭一准教授らの研究グループ は、軸索が正しい場所に向けて伸びるために化学信号を力に変換する仕組みを解明することに成功した。軸索先端で自動車のクラッチのように接続して力を伝え る役目のシューティンと呼ばれるタンパク質が、誘引シグナルの引き起こす化学反応によりエンジンに相当するアクチン線維との連結を強めて力を生み出し軸索 伸長を加速させることを証明した。この成果により、神経の正しいネットワーク形成についての理解が深まるとともに、再生医療への応用などが期待できる。
この成果は、米国東部時間の平成25年2月28日(木)付のカレントバイオロジー誌(Cell Press社)のオンライン版に掲載された。
【解説】
研究の背景
  脳内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を正しい場所に向けて伸ばし、結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作る。そのさいに軸索は脳内の 道路標識や信号にあたる分子に導かれて正しい場所へと誘導される必要がある。これまでの研究から、道路標識や信号にあたる軸索誘引分子や軸索反発分子、そ して、これらの分子を軸索先端で検知する受容体タンパク質は同定されていた。しかし、このような分子によって引き起こされる細胞内分子シグナルが、いかに して軸索のナビゲーションを遂行するための駆動力に変換されるのかその仕組みはこれまで解っていなかった。研究グループは、5年前に、軸索を伸ばす仕組み のキーとなるクラッチタンパク質シューティンを世界で初めて突き止めており、今回この分子に着目して解析を行った。
研究の手法
  実験では、ラットの脳内の海馬にある神経細胞を培養して材料に使った。また、高感度顕微鏡カメラを用いた細胞内1分子計測法により、クラッチの役目をする シューティンとエンジンの役割を果たすアクチン線維との連結をライブ計測した。また、軸索の先端で発生する微細な駆動力の測定のために、神経細胞を複数の 蛍光ナノビーズ(ゲルの変形をモニターする粒子)を包埋したゲルの上に培養し、力の発生に伴うゲルの歪みをビーズの動きから計測した。発生した駆動力の大 きさと方向は、計測したビーズの動きをコンピュータで解析して求めた。
結果
 まず、脳内で青信号の役割を果たすネトリンという分 子で神経細胞を刺激したところ、軸索先端でクラッチ分子シューティンがPak1という酵素の反応を受けてリン酸化されることがわかった(補足図1、緑矢 印)。次に、細胞内1分子計測法によりシューティンとエンジンの役割を果たすアクチン線維との連結をライブ計測したところ、リン酸化されていないシュー ティンはアクチン線維と連結しないが、シューティンがリン酸化を受けるとアクチン線維と連結することがわかった。また、リン酸化を受けたシューティンがア クチン線維と連結することは蛍光顕微鏡観察でも確認できた(補足図2)。さらに、シューティンのリン酸化によるシューティンとアクチン線維との連結はアク チン線維の駆動力(補足図1、黄矢印)をタイヤ分子(細胞接着分子、自動車のタイヤが路面をとらえるような役割をする)へと伝え(青矢印)、これにより軸 索の伸長を促進させることもわかった(灰色矢印)。
 以上の結果から、Pak1によるシューティンのリン酸化が、軸索を正しい場所にナビゲーションするために化学的な誘引信号を駆動力に変換することが明らかとなった(補足図1)。
研究の意義と位置づけ
  神経が正しい場所へ軸索を伸ばす分子の仕組みの解明は、神経再生の治療法開発にとって基盤となる知見である。今回の発見は、この機構の中で、キーポイント となる化学的な誘引信号を駆動力に変換する仕組みを明らかにした。さらに、このようなナビゲーションの仕組みは、発生に伴う生体内の細胞移動や、免疫細胞 の移動やがん細胞の浸潤など他の細胞にも存在する可能性が指摘されており、発生学に加えて免疫学やがん研究といった医学領域の研究の加速も期待できる。
 本研究成果は、科学技術振興機構(JST)文部科学省(MEXT)および日本学術振興会(JSPS)科学研究費、 NAISTグローバルCOEプログラム、大阪難病研究財団、NAIST次世代融合領域研究推進プロジェクトによる支援によってなされた。
【関連リンク】
・論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2013.02.017
http://library.naist.jp/dspace/handle/10061/8621(NAIST Academic Repository: naistar)
・以下は論文の書誌情報です。
Michinori Toriyama; Satoshi Kozawa; Yuichi Sakumura; Naoyuki Inagaki, Conversion of a Signal into Forces for Axon Outgrowth through Pak1-Mediated Shootin1 Phosphorylation, Current Biology, 28 February 2013






 法人情報
法人情報 教育情報の公表
教育情報の公表 ガバナンス・コード適合状況等
ガバナンス・コード適合状況等 奈良先端大基金
奈良先端大基金 研究室ガイド
研究室ガイド プレスリリース一覧
プレスリリース一覧 採用情報
採用情報 NAIST Research
NAIST Research キャンパスマップ
キャンパスマップ アクセスマップ
アクセスマップ 情報公開・個人情報保護・公益通報
情報公開・個人情報保護・公益通報 関連リンク
関連リンク お問い合わせ先一覧
お問い合わせ先一覧 節電Web
節電Web

