植物は器官の大きさを適度に保つための独自の知恵をもっている ~細胞増殖を調節する新たな仕組みを解明 植物バイオマスの増産に期待~

2013/04/10

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原 直毅)バイオサイエンス研究科 植物成長制御研究室の 梅田正明教授らは、植物が器官の大きさを一定サイズに保つために、細胞増殖を適度に抑える仕組みをもつことを明らかにした。これまで細胞壁などによる物理 的な力が器官の成長を制御することは知られていたが、異なる細胞間のシグナルのやりとりにより細胞増殖が抑制されるメカニズムの発見は初めて。植物の巧妙 な成長戦略を裏付けた。

梅田教授らはシロイヌナズナで植物体の成長を調節する極長鎖脂肪酸(ワックスの成分)の合成を阻害し、その際に見 られる現象を詳細に観察した。その結果、植物ホルモンの一つであるサイトカイニンの合成量が増加することにより、細胞増殖が活性化することを明らかにし た。この現象に伴い葉などの器官サイズが大きくなったことから、植物は通常、極長鎖脂肪酸を合成することで、サイトカイニンの合成量を減らし細胞増殖を適 度に抑制しており、器官の大きさを一定サイズで収めるバランスの取れた仕組みを持つことが明らかになった。

本研究の成果は、極長鎖脂肪酸 合成の阻害剤などを使って細胞増殖の歯止めをなくし、器官サイズを大きくして植物バイオマスを増産させるなど、新たな方向性を与えるものと期待される。こ の研究成果は平成25年4月9日付けでPLoS Biology(オンラインジャーナル)で掲載される予定である(プレス解禁日時:日本時間 平成25年4月10日(水)午前6時)。
 
【解説】
植物の体表面はワックスという油脂状の物質で覆われており、病原菌の感染や水 分の蒸発を防いでいる。極長鎖脂肪酸はワックスの成分として重要であり、その合成を阻害するとワックスの生成ができなくなるため、植物の成長は著しく阻害 される。実際、極長鎖脂肪酸合成の阻害剤は除草剤として利用され、市販されている。

ところが、梅田教授らは極長鎖脂肪酸の合成をわずかに 阻害しただけでは成長阻害が全く起こらず、むしろ葉などの器官サイズが大きくなることを見出した(図1)。そこで、この現象をさらに詳細に解析したとこ ろ、極長鎖脂肪酸の合成阻害によりサイトカイニン合成遺伝子が活発に働きはじめ、サイトカイニンの量が増加することにより細胞増殖が活性化していることが 明らかになった。つまり通常、極長鎖脂肪酸はサイトカイニン合成を抑えることにより細胞増殖を適度に抑制し、器官サイズが必要以上に大きくなることを防ぐ 役割をもつことが示された。

ここで興味深い点がある。極長鎖脂肪酸は表皮(組織の最外層)のみで合成されるのに対し、サイトカイニン合成 遺伝子は維管束のみで発現しているのである。つまり、表皮で合成される極長鎖脂肪酸が別の組織である維管束でのサイトカイニン合成を抑えていることにな り、表皮から維管束に向けて何らかのシグナルが流れていると推測される(図2)。いずれにしても、器官の成長が表皮(表面)と維管束(中心軸)の相互作用 でコントロールされるという、器官成長の仕組みとして極めて新しいメカニズムが明らかになった。

【本研究の意義】
極長鎖脂肪酸の 合成阻害剤を用いることにより器官サイズを大きくすることができたことから、化合物を用いた植物バイオマス増産の新たな技術開発の道筋が見えてきた。バイ オ燃料やバイオプラスチックの原料となる植物素材の増産に利用すれば、光合成による二酸化炭素の効率的な資源化に貢献できると考えられる。また、これまで 動植物を通じて殆ど明らかにされていない、器官の大きさを決める機構の一つが明らかになったので、植物の形態を自在に操る技術開発にも繋がると考えられ る。

【用語解説】
● 極長鎖脂肪酸
炭素数が20よりも大きい脂肪酸。クチクラワックスの成分となる他、種子のトリアシルグリセロールやスフィンゴ脂質(セラミド)の成分にもなる。VLCFA (very-long-chain fatty acid)。

● サイトカイニン
植物ホルモンの一つ。植物の地上部器官では細胞分裂を促進する働きをもつ。サイトカイニンの合成酵素をコードする遺伝子は維管束で発現しており、維管束で合成されたサイトカイニンが周りの細胞に供給され、細胞分裂が起こる。

admin_072bb50fc13a084c7c5d50e76eebad3f_1365557751_.gif

admin_072bb50fc13a084c7c5d50e76eebad3f_1365557768_.gif

PDFファイル(259.33 KB)

プレスリリース一覧に戻る