100Gbps超え8K非圧縮映像と音響環境の遠隔配信 〜札幌で撮影した8K映像を分割同期技術により、大阪にて再現〜

2017/02/03

 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原直毅)情報科学研究科 情報基盤システム学研究室(教授:藤川和利)の 油谷曉 助教、ネットワーク統合運用教育連携研究室の 小林和真 教授らは、2月6日(月)、7日(火)に国立研究開発法人 情報通信研究機構(以下「NICT」)が主催する「さっぽろ雪まつり」開催時の実証実験において、札幌・大阪間を複数の回線で結んだ200Gbpsの広帯域ネットワーク網を用い、100Gbpsを超える8K(7680x4320画素)の非圧縮超高精細ライブ映像と8K相当品質である立体音響の遠隔映像伝送に初めて取り組みます。
 複数の回線を組み合わせたネットワーク上で映像伝送を成功させるために、100Gbps超の8K映像を必要に応じて分割して伝送し、受信時に再び映像を同期再生するという技術を確立し、この方法により実現したもの。従来の単一回線の帯域によって映像品質が制約される条件下においても、このように複数の回線を組み合わせることにより、より高精細な映像を伝送することが可能になることが実証されることになります。
 本実験で使用するネットワーク網は、NICTが構築・運用するネットワークテストベッド「JGN」に加え、大学共同利用機関法人 国立情報学研究所の「SINET5」と連携しており、それにより、日本列島を縦断する200Gbpsネットワークを構築することが可能になりました。
 本実証実験について、下記のとおり事前内覧会及び一般公開を行いますので、記事掲載、及び取材方よろしくお願いいたします。

<主催> 国立研究開発法人 情報通信研究機構

<日時> 平成29年2月6日(月)

           事前内覧会 : 16時00分~17時00分

           一般公開 : 17時00分~21時00分

       平成29年2月7日(火)

            一般公開 : 17時00分~21時00分

<場所> グランフロント大阪 ナレッジキャピタル The Lab.(ザ・ラボ)3F

       大阪市北区大深町3-1(北館)( https://kc-i.jp/facilities/thelab/

<問い合わせ先>
       奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報基盤システム学研究室 助教 油谷 曉
       TEL:0743-72-5143 FAX:0743-72-5159 E-mail:yuta@itc.naist.jp


【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原直毅)情報科学研究科 情報基盤システム学研究室(教授:藤川和利)の 油谷曉 助教、ネットワーク統合運用教育連携研究室の 小林和真 教授らは、国立研究開発法人 情報通信研究機構(以下、「NICT」)、学校法人幾徳学園 神奈川工科大学(以下、「KAIT」)、関西大学、NTTアイティ株式会社(以下、「NTT−IT」)、PFUビジネスフォアランナー株式会社(以下、「PFU」)、アストロデザイン株式会社(以下、「アストロデザイン」)、池上通信機株式会社(以下、「池上通信機」)、株式会社毎日放送(以下、「MBS」)、株式会社エムアイセブンジャパン(以下、「MI7」)らと共同で、2月6日(月)、7日(火)にNICTが主催する「さっぽろ雪まつり」開催時の実証実験(注1)において、札幌・大阪間を複数の回線で結んだ200Gbpsの広帯域ネットワーク網を用い、100Gbpsを超える8K(7680x4320画素)の非圧縮超高精細(注2)ライブ映像と8K相当品質である立体音響(注3)の遠隔映像伝送に初めて取り組みます。


【背景】

 2020年の東京オリンピックの開催に向けて、8Kや4Kの超高精細映像を利用するアプリケーションの研究開発が加速しています。8K映像の制作過程においては、従来のDual Green方式で必要となる約24Gbpsの伝送帯域(通信速度)に加えて、更に高画質・高フレームレートの100Gbps超の伝送帯域が必要になりつつあります。昨年までの実証実験においては、単一回線当たりの伝送帯域が100Gbpsであるという制限から、今回の109Gbps映像データの伝送を行うことは不可能でした。しかし、複数の回線を組み合わせて映像伝送に利用することが可能になれば、より高品質な映像の伝送を行うことが可能になります。複数の回線を組み合わせて映像伝送を行う手法として、8K映像を必要に応じて複数の映像に分割し、複数の回線に対してストリーミングデータとして伝送を行うことで実現し、再生時に必要な映像間の正確な同期は予め同期処理を行うことで実現します。また、高臨場感環境の遠隔地での実現として、立体音響を再現するために必要な12チャンネル分のハイレゾ音声信号の伝送も行います。

 奈良先端大では、KAIT や関係各社とともに、4K 超高精細映像素材を安定的に伝送、蓄積配信するストリーミングクラウドというインターネットを使って行う技術の研究開発を NICTのテストベッド(試験環境)である JGN(注4)を利用して進めてきました。2014年は、使用可能な回線の帯域が 100Gbps 化されたことにより、4K よりもさらに高精細な 8K超高精細映像でも、既存の 4K 映像伝送装置(5)や広帯域 IP 映像サーバ(注6)を複数台用いて圧縮せずに伝送可能であることを、世界で初めて東京・大阪間の実験により実証し、映像の臨場感を損なうことなく遠隔地へ IPネットワークサービスにより中継することが可能になることを証明しました。これにより、8Kカメラのような映像機器をネットワークに接続して遠隔地のクラウド装置と接続することで撮影場所と映像処理するクラウド設備をシームレスに連携でき、編集に必要な時だけクラウドの設備を使う映像製作をインターネットのクラウド上で動作させることが可能となりました。2015年は、100Gbps の回線に接続された複数の IPルータによりマルチキャスト(7)配信機能を構成し、東京や北陸からの複数の 8K 超高精細映像素材の選択的な受信を行うことで、仮想的な映像スイッチング機能を実現する実験を大阪で行いました。このマルチキャスト配信機能を使用し、8K 超高精細映像素材コンテンツから生成された様々なレートの映像コンテンツを配信することを行いました。さらに、これらの映像素材のネットワーク上の安定的な配信を実現するため、高精度なネットワーク計測技術(8)と 8K 映像トラヒックメータを併用して、100Gbps 回線の伝送状況を実時間で観測する実験も行いました。2016年は、リアルタイム暗号化配信技術として、IPsec(9)による複数の暗号化技術を用いて広域ネットワーク上で非圧縮 8K 超高精細映像をリアルタイムに暗号化、復号化し安全に配信できる仕組みを構築しました。さっぽろ雪まつり会場で撮影される 8K 映像データを全て暗号化して大阪うめきたの一般公開会場まで送信し、会場内で復号化して中継映像を広域に安全に配信できることを実証し、その結果、配信経路での盗聴や改ざんを防ぐための重要なセキュリティ確保が可能になることを証明しました。

 今回のインターネット網は、NICTが構築・運用するJGNに加え、大学共同利用機関法人 国立情報学研究所が構築・運用するSINET5(注10)が実証実験に参加することにより、北海道から大阪まで複数の回線を使用しての200Gbps帯域のネットワークを構築することが可能になりました。

【今後の予定】

 今回の実証実験での結果を踏まえ、超高精細映像と立体音響を用いた遠隔地での超臨場感環境の実現、ネットワーククラウドを利用した映像製作ワークフロー(作業手順)の確立などの研究開発をより進めてまいります。

【参考プレスリリース】

 国立研究開発法人 情報通信研究機構
 http://www.nict.go.jp/press/2017/02/03-1.html

【協力会社】

 実証実験の実施にあたり、シャープ株式会社様、北海道テレビ放送株式会社様、アリスタネットワークス様の御協力をいただきます。


【注釈】

(注1) 「さっぽろ雪まつり」時の実証実験
 NICTが新世代ネットワーク技術と放送技術の実証実験の場として、テストベッドネットワークJGNを用いた実験フィールドを提供して行う。様々なプロジェクトが最新技術を持ち寄り、実験を行う。

(注2) 8K超高精細映像/4K高精細映像
 8Kは現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3300万画素 (7680×4320画素) を持つ。様々なフォーマットが提案されているが、今回は8Kフル映像方式(YUV 4:2:2)、フレームレート毎秒60枚、10bit映像を扱い、必要なネットワーク帯域は48 Gbpsになる。
 4Kは2014年に試験放送が始まった次世代高品質テレビ規格のこと。様々な規格があるが、今回は映像業界での素材として用いられる4K60P映像と4K30P映像を利用した。

(注3) 立体音響
 音声の録音・再生時に、3次元的な音の方向、距離、広がりを再現するための手法。従来の音響システムと比較して非常に高い臨場感が得られることが特徴となっている。今回の実験では、現場で収録した16chのハイレゾ音声を、8chの3Dオーディオ再生空間に最適となるように調整して再生した。

(注4) JGN
 NICTが2011年4月から運用している新世代ネットワーク技術の実現とその展開のためのテストベッド環境のこと。JGN利用プロジェクトとして、2013年4月にKAITが「リアルタイム指向ネットワークコンピューティング技術を用いたストリーミングクラウド機能の検証」というプロジェクトを立ち上げ、奈良先端大も共同研究・実験を行っている。その他の参加組織は、NTT-IT、PFU、アストロデザイン、NTT未来ねっと研究所、池上通信機であり、共同で超高精細映像伝送・蓄積配信実験を進めている。2011年以前より、奈良先端大はJGNの前身であるJGN2plusに10Gbpsで接続を行い、NTT未来ねっと研究所との間で各種の利用実験を行っている。

(注5) 4K映像伝送装置
 NTT未来ねっと研究所の技術を基に、PFUからQool Tornado QG70として製品化されている。QG70は1台で非圧縮ハイビジョン素材(伝送レート1.5Gbps)を4本同時に送受可能な性能を有し、装置内の同期で4Kの非圧縮素材を送受信可能である。今回は、装置間の同期を行う事で、8K超高精細素材の伝送を実施する。[参考 URL] http://www.pfu.fujitsu.com/qooltornado/

(注6) 広帯域IP映像サーバ
 NTT未来ねっと研究所の技術を基に、NTT-ITから「viaPlatz XMSサーバ」として製品化されている。本サーバ装置では、1台で4K60P (12Gbps) を蓄積・配信できる性能を有する。本サーバ装置を2台設置し、入出力装置として「viaPlatz 4Kメディアゲートウェイ」を4台使うことで、8K 超高精細素材の蓄積・配信を実現している。
[参考 URL] http://www.viaplatz.com/

(注7) マルチキャスト
 一対多で、一つの送信元から複数の宛先を持つグループに送信する仕組み。送信元から送信したデータを途中のノードで必要な宛先にのみ複製し、要求に応じて必要な伝送経路を選択する機能を持つため、最小限の帯域利用で効率的な伝送が可能となる。今回はマルチキャストルーティングプロトコルに PIM-SM (Protocol-Independent Multicast Sparse Mode) を用い、マルチキャストグループの切り替えによって、受信する内容を選択的に変更する仕組みを利用している。

(注8) 高精度なネットワーク計測技術
 JGNでは、高精度ネットワーク測定装置PRESTA 10Gを複数配置し、多面的な計測が可能な環境を用意している。PRESTA 10Gは、10Gbpsのキャプチャ・ジェネレータ機能を有する10ナノ秒粒度で測定可能なネットワーク測定システムであり、NTT未来ねっと研究所の技術を基にNTT−IT社から「viaPlatzストリームモニタ」として製品化されている。

(注9) IPsec
 IPsecはインターネット上での安全な通信を実現するための方式で、IPネットワーク上での通信の端点と端点で暗号化と認証を行う。これにより、通信路上でのデータの盗聴や改ざんを防止することが可能となる。特定の通信のみを保護する方式と異なり、対象とするIPネットワーク上を流れる全ての通信を一元的に保護することが可能である。

(注10) SINET5
 国立情報学研究所 (NII) が日本全国の大学、研究機関等の学術情報基盤としての構築、運用している学術情報通信ネットワーク。今回の実験では、2016年1月より構築を開始したSINET5を利用し、札幌・大阪間の回線を担当した。

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