乳がん患者の体験を蓄積し、AI開発につなげるエピソードバンク開発 特有の悩みや生活改善の知恵を共有 大学と患者グループが共同で研究・運営

2020/10/15

乳がん患者の体験を蓄積し、AI開発につなげるエピソードバンク開発
特有の悩みや生活改善の知恵を共有
大学と患者グループが共同で研究・運営

【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科情報科学領域ソーシャル・コンピューティング研究室の荒牧英治教授らの研究グループは、がん患者のQOL(生活の質)の向上のための活動を行っているキャンサー・ソリューションズ株式会社(代表取締役社長:桜井なおみ)と共同研究を行い、乳がんサバイバー(体験者)の様々な生活の知恵や経験をもとに支援の方策を求める当事者研究に活用したり、またそれらを皆で共有し理解を深めるために、様々なエピソードを募集し、蓄積する「ABCエピソードバンク」を開発・公開しました。

 「ABCエピソードバンク」は、乳がんの診断を受けた方が対象で、特にAdvanced Breast Cancer(進行乳がん)の診断を受けた方を中心に、自身の苦労や工夫を自由に投稿・閲覧できるソーシャル・メディアです。
 ソーシャル・メディアとしては、ブログと掲示板の中間の性質を持っていることが特徴です。利用者同士のコミュニケーションの機能を最小限に止めることで、ソーシャル・メディア上での人間関係の負担を減らし、コミュニケーション上の問題が起きにくいシステムとなっています。一方で、蓄積された投稿エピソードを一望することが可能なため、利用者にとって近い状況にある人々の存在を感じることができ、孤独感を感じにくいシステムとなっています。

 このような形式のエピソードバンクは、様々ながんにまつわる体験談を集め、それを皆で共有し、互いの経験で支え合うことを目的としています。そこで、自由に書かれた体験談の中から、人工知能(AI)の一種である自然言語処理の技術を使い、キーワードに着目して、求める内容により近いエピソードを選び、提供できるようになっています。患者は、たくさんの経験をしています。それは、一人一人、全て違う経験です。同じ経験をした人は二人といませんが、たくさんある経験の中には、何か共通点があるはずです。医師らが気づかなかった患者のニーズも掘り起こします。

 このようなエピソードバンクの活動を通じて、乳がん患者の体験や生活の知恵の集積が、患者の助けになりうるか、また、効果的な運営にどのような情報技術が寄与するかなどを共同研究していきます。今回のエピソードバンクのような大学と患者グループが共にサイトを運営する試みは、我々の知る限りでは、日本初であり、今後の発展をめざしています。

             

図1                  

図:ABCエピソードバンク概要
トップページ(上)とエピソード本文詳細ページ(下) 
ABCエピソードバンク:https://abc.episodebank.com/
              

【背景と目的】

 国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学ソーシャル・コンピューティング研究室では、自然言語処理の技術を医療技術に応用する様々な先進的研究を行ってきました。また、既存のソーシャル・メディアの公開データを用いて、そこに潜む社会問題を浮き彫りにする可視化にも取り組んできました。この技術を生かして、エピソードバンクシステムを開発しました。

 一方、キャンサー・ソリューションズ(株)では、がんサバイバーの知識と経験を生かし、がん患者のQOL向上につながるような社会活動や研究活動を行っています。
この二者の共同研究により、転移性乳がんを中心とした乳がん患者の方向けの「ABCエピソードバンク」を開発しました。
 キャンサー・ソリューションズ(株)の監修により、乳がん患者の方にとって頻出する悩みをタグとしてあらかじめ設定しておくなど、治療で疲れている患者でも投稿しやすい構成を実現しています。
 学術的な側面としては、自然言語処理等の技術を用いて、投稿されたエピソードから医療者や研究者が気づかなかったような患者自身のニーズを抽出することを目指しています。
 社会的な側面としては、上記の抽出されたニーズを還元し、患者のQOL向上を目指しています。
 

【開発者からのコメント】

(奈良先端科学技術大学院大学ソーシャル・コンピューティング研究室)
 荒牧英治教授
 患者さんの声は貴重ではあるものの、我々研究者からは遠く、リーチが困難な材料でした。エピソードバンク構想により、研究者が自由に使えるデータが増えることで、技術が進み、患者さんへ還元できるようになることを目指して研究していきたいと思います。
 眞鍋雅恵研究員
 エピソードバンクが、患者さんの実際の声と、研究者・医療者の架け橋になることを願っております。また、心理的・認知的な負荷が少なく利用できるようなソーシャル・メディアを目指していきたいと思います。

(キャンサー・ソリューションズ株式会社)
 
桜井なおみ(代表取締役社長
 がんの診断を受けた直後、「なぜ自分がなったのだろう」「どうやって皆は心を整えているのだろう」と、孤独感や不安な気持ちでいっぱいになります。たくさんの仲間のエピソードが、仲間を支え、「ひとりじゃないよ」というメッセージにつながることを期待しています。
 駒形千鶴子(イベント・プランニングスタッフ)
 「こんな時どうしたらよいのだろう?」「他の人はどうしているのだろう?」など、気持ちが迷ったときに多くの方々のエピソードが参考になればと思います。そして、患者さんと、支える側の双方の拠り所になっていくことを願っています。

【用語説明】

  • 乳がんサバイバー:乳がんと向き合いながら生きるという意味を含んだ「乳がん体験者」を表す言葉として使われています。
  • 自然言語処理技術:人間が日常生活で用いる言語(自然言語)を、コンピュータに処理させるための技術です。

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】

  奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科
  〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916-5
  情報科学領域 ソーシャル・コンピューティング研究室 教授 荒牧英治
  TEL:0743-72-5250  E-mail:socialcomputing-office[at]is.naist.jp

 キャンサー・ソリューションズ株式会社
  〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-9大新ビル4F-401号
  駒形千鶴子
  TEL:03-5577-6440  E-mail:abc[at]cansol.jp
(※新型コロナウィルス感染症予防のためテレワークとしておりますので、表記のE-mailにてご連絡ください)

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