ヒトチオレドキシン1を産生するレタスの共同開発に成功

2008/04/25

奈良先端科学技術大学院大学の横田明穂教授らの研究グループと京都大学ウイルス研究所淀井淳司教授らの研究グループは、 ストレス・炎症・アレルギーを抑制するタンパクにおける医薬健康産業への応用が期待される「ヒトチオレドキシン1」を産生するレタスの共同開発に成功し、 平成20年3月26日開催の日本農芸化学会2008年度大会において発表しました。


〔研究成果の概要〕

レタスでのヒトチオレドキシンの産生
-ストレス・炎症・アレルギーを抑制するタンパクにおける医薬健康産業への応用-

奈良先端科学技術大学院大学の横田明穂教授らの研究グループと京都大学ウイルス研究所の淀井淳司教授らの研究グループは、ヒトチオレドキシン1を産生するレタスの共同開発に成功しました。 
京 都大学ウイルス研究所の淀井淳司教授らにより発見されたチオレドキシン1は様々な酸化ストレス(注1)により誘導され、活性酸素消去や抗酸化作用以外に、 炎症性サイトカインMIF(注2)を抑制する抗炎症作用を持ち炎症・アレルギー性疾患を抑制します。このため、酸化ストレスや炎症性疾患に対する有効な治 療薬として期待され、現在大腸菌で生産したヒトチオレドキシン1を用いて、京都大学医学部附属病院探索医療センターで臨床試験を目指しています。
一 方、植物における医薬用タンパク質産生は、大腸菌と比較して、安全性やコスト面で優れ、また環境にやさしいなど、多くの優位性が指摘されているので、チオ レドキシンを含めたタンパク医薬の実用化に大きな貢献が期待されます。特に、植物の葉緑体は医薬用タンパク質を貯蔵する場所として優れています。これらの 背景から、ヒトチオレドキシン1の生産を食用であるレタス葉緑体で行うことを目的に両大学が共同研究を進めて来ました。
今回、京都大学がチオレド キシンの事業化を目指す京大発バイオベンチャーのレドックスバイオサイエンス社が提供するヒトチオレドキシン1遺伝子を奈良先端科学技術大学院大学の横田 研究室でレタス葉緑体(注3)のゲノム(注4)に導入することによって、遺伝子組換えレタスにおいて医薬用タンパク質であるヒトチオレドキシン1の産生に 成功したものです。本研究成果は、経済産業省の「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」研究プロジェク トの内、奈良先端科学技術大学院大学が受託した「医・農・工融合によるヒトチオレドキシン1産生レタスの生産技術の開発」プロジェクトの一部として 横田明穂教授 蘆田弘樹助教 研究員Lim Soon らと京都大学ウイルス研究所淀井淳司教授らが、レドックスバイオサイエンス社の協力の下に行った緊密な共同研究によるものです。
植物の 葉緑体を医薬用タンパク質産生工場として利用できる可能性が、医薬品として期待されるヒトチオレドキシン1を用いて実証され、医学と植物科学が融合した新 たな研究分野が開拓されました。ヒトチオレドキシン1の植物での生産はこれまで欧米の大企業数社から共同研究の提案があり成功していなかったもので、今回 の両大学の共同研究の結果 国産での道が開けたと言えます。レタスという安全な野菜から、医療用タンパク質の大量生産が可能となり、京都大学医学部附属病 院探索医療センターや関係部局の協力と、文部科学省橋渡し研究及び医薬基盤研の支援で進んでいる炎症性疾患に対する治療薬開発の実用化段階では 今回の成 果の広い応用が期待されます。また、新しい化粧品などの素材としても利用可能で、さらに、ヒトチオレドキシン1を高産生させたレタスとして抗炎症作用を介 した食品としての応用も期待されています。
この成果は既に2008年3月26日から名城大学(名古屋市)で開催された日本農芸化学会2008年度 大会で発表され一部が報道されましたが、今回の両大学研究グループによる記者説明は、農学と医学 両大学間の共同による産学官連携共同研究の例として、新 しいヒトチオレドキシン生産方法の紹介とその医薬健康産業への応用への意義について、両研究グループ共同で概説するものです。


用語説明
注1 酸化ストレス:活性酸素が過剰となった状態。
注2 MIF Migration Inhibitory Factor:重要な炎症タンパクで 呼吸器・消化器の炎症性疾患の増悪要因とされている。
注3 葉緑体:植物固有の器官であり、最も主要な機能は光合成である。
注4 ゲノム:全ての遺伝子情報

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