組織を繰り返し切断し、小分けする仕組みを世界で初めて解明「一人二役」の遺伝子の発見 ~再生医療への応用に期待~

2009/05/11

【概要】
哺乳類など脊椎動物の背骨をみると、同じようなサイズに分かれたパーツの骨が、縦にいくつも並んで連なっているのがわかる。このような繰 り返し構造が胎児の中で作られるとき、もとは一続きだった細長い組織から、小さな組織が「切断」し分離されるというプロセスが、何十回も繰り返される。例 えると、羊羹をその端から同じ幅でスライスし続けるようなものである。今回、この「切断」を引き起こす遺伝子が、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエ ンス研究科の高橋淑子教授らのグループにより解明された。

高橋教授らはこれまでにも、背骨のもとになる「体節」とよばれる組織を使って、 切断のしくみを研究してきた。そして切断される場所の細胞を、切断されるはずがない場所に移植すると、そこで新たな「切れ目」が作られることを見出してお り、その成果が今回のエフリン遺伝子の発見につながった。

高橋教授らが、本来ならば切断は起こらない組織にエフリン遺伝子を働かせると、 それだけで新たな切れ目ができた。また、体節はもともとばらばらの不定形の細胞が集まってできているが、切断と同時に、切断面の細胞のみが滑らかな上皮型 へと変化する。高橋教授らは、エフリン遺伝子がこの上皮化にも関わることを発見し、エフリンが切断と整形の「一人二役」であることを世界で初めて明らかに した。わかりやすく例えると、レンガを半分に切断し、その切断面にペンキをぬって滑らかにするようなものである。
 今回の研究を成功に導いた「胚内エレクトロポレーション(遺伝子導入)法」は、高橋教授らが開発し、日本が圧倒的なリードを誇る遺伝子操作法である。

「再生医療などへの応用」
エフリン遺伝子をうまく利用することで、再生中の組織を必要な大きさに分断し、患者に合わせて整形できる道が開けた。またその逆に、エフリンの作用をブロックすることで、ばらばらになっている組織をつなげる技術の可能性もみえてきた。

【用語解説】
エフリン:
エ フリン遺伝子は、隣り合う細胞同士を物理的に離す作用がある。このとき片方の細胞にエフリンが、またもう一方の細胞にEphという遺伝子が働く。エフリン やEphは、今回のような組織の切断以外にも、動脈と静脈の区別、大脳や小脳などの区画整理、そして神経の混線を防ぐ役割をもつ。このため、心血管障害や アルツハイマー病の予防にも注目されている遺伝子である。

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