神経細胞が軸索を伸ばすために細胞膜を広げる仕組みを発見 ~神経の伸長など再生医療への応用期待~

2012/09/12

【概要】
脳内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を伸ばし、結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作る。軸索を伸ばすために、神経 細胞の表面積を広げなければならず、時には細胞体の表面積の1万倍にも達する。このさいに細胞膜の材料となる膜成分の供給が不可欠だが、その仕組みはこれ までよくわからなかった。

バイオサイエンス研究科神経形態形成学研究室の 稲垣直之准教授、博士課程3年の中澤瞳氏、情報科学研究科の杉浦忠男准教授、東北大学・生命科学研究科の福田光則教授らの研究グループは、神経細胞が軸索 を伸ばすために細胞膜を広げる仕組みを解明することに成功した。神経細胞内にあり、これまで機能がわからなかった「Rab33a」というタンパク質が、細 胞体で合成された細胞膜成分の軸索先端への輸送と供給を担うことによって、軸索の伸長と形成に関わることを証明した。この成果により、軸索の形成や再生に ついての理解が加速するとともに、神経の伸長など再生医療への応用などが期待できる。

この成果は、米国東部時間の平成24年9月12日(水)付のジャーナル・オブ・ニューロサイエンス誌(米国神経科学会誌)に掲載された【プレス解禁日時:日本時間平成24年9月12日(水)午前6時00分】。

【解説】
研究の背景
脳 内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を伸ばし、隣接する他の神経細胞と結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作る。神経細胞が時には1m にも達する長い軸索を伸ばすには、膨大な量の表面を広げなければならない。細胞の表面を広げる際には細胞膜の材料となる膜成分の供給が必要である。これま でに、細胞膜より回収された膜成分を軸索先端へリサイクルする仕組みは報告されていた。しかし、神経突起を伸長させるには細胞膜リサイクルだけでなく、細 胞体で新たに作られた膨大な量の膜成分を供給することが必要不可欠であり、その仕組みはこれまでよくわかっていなかった。研究グループは、脳に存在し、細 胞内で膜の輸送に関わるRabファミリーといわれるタンパク質の仲間の一つである機能未知のRab33aに着目して解析を行った。

研究の手法
実 験では、ラットの脳内の海馬にある神経細胞を培養して材料に使った。また、光って目印となるクラゲ蛍光タンパク質(GFP)等を遺伝子に組み込んで、軸索 内における細胞膜成分やRab33aの動きをライブ観察した。また、軸索の先端で細胞膜成分が細胞膜に供給される様子は、SypHyという膜融合の際に光 る蛍光タンパク質と全反射顕微鏡を用いて観察した。

結果
まず始めに、Rab33aの分布を調べた。神経細胞では、細胞膜の材料と なる膜成分は細胞体にある小胞体とゴルジ装置で合成され、軸索内を先端まで輸送されて軸索の先端で細胞膜に供給されると考えられている(補足図1)。実験 観察の結果、Rab33aはゴルジ装置から軸索先端に至る膜成分の輸送経路に沿って分布することがわかった(同1)。補足図2の顕微鏡写真では軸索先端に Rab33a(緑色)が広がっていることが示されている。
一方、エンドソームと呼ばれる細胞膜のリサイクルに関わる経路にはRab33aが見られなかった。

次 に、ライブ観察で、Rab33aが制御する膜成分の移動と突起先端での膜成分の供給を顕微鏡で測定した。その結果、Rab33aの発現量を減らした神経細 胞では、細胞体から軸索先端への膜成分の輸送量が減少し、膜成分の軸索先端の細胞膜への供給量も減少することがわかった。また、Rab33aの発現量を減 らした神経細胞では、軸索の形成と伸長が抑制された。逆に、Rab33aの量を増やしすぎた神経細胞では、膜成分の突起先端への供給が過剰となった結果、 複数の軸索が形成された。

以上の結果から、Rab33aが、細胞体で新たに合成された細胞膜成分を軸索先端へ輸送し細胞膜に供給することによって、軸索の形成と伸長を起こすことが明らかとなった(補足図1)。

研究の意義と位置づけ
神 経が軸索を伸ばす分子の仕組みは、神経再生の治療法開発にとって基盤となる知見である。今回の発見は、これまでに知られていなかった軸索を伸ばすために細 胞膜を広げる仕組みに光を当てることとなった。軸索を伸ばす分子を発見し、その仕組みを一つずつ明らかとすることによって、神経軸索を伸ばす薬剤や遺伝子 治療法のデザインが今後可能となってゆくと期待される。

本研究成果は、文部科学省及び日本学術振興会の科学研究費補助金、 本学グローバルCOEプログラム、財団法人大阪難病研究財団、本学次世代融合領域研究推進プロジェクトによる支援によってなされた。

【関連リンク】
・論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0989-12.2012
http://library.naist.jp/dspace/handle/10061/8556 (NAIST Academic Repository: naistar)
・以下は論文の書誌情報です。
Hitomi Nakazawa; Tadayuki Sada; Michinori Toriyama; Kenji Tago; Tadao
Sugiura; Mitsunori Fukuda; Naoyuki Inagaki, Rab33a Mediates Anterograde
Vesicular Transport for Membrane Exocytosis and Axon Outgrowth, The
Journal of Neuroscience, 12 September 2012, 32(37), 12712-12725

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