超低消費電力のスマートウインドウ用材料-電流効率2000%のエレクトロクロミック材料 ビルや自動車の冷房効率の大幅改善が可能に-

2012/12/07

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:磯貝 彰)物質創成科学研究科 光情報分子科学研究室の 中嶋琢也准教授、河合 壯教授らは、電気を流すと理想的な電流効率(100%)の20倍以上の極めて高い効率で色が消えるエレクトロクロミック分子の開発に成功した。光で着色 し、電気で消色することが可能なことから、外光の取り入れ量を調節するビルや自動車の調光機能窓(スマートウインドウ)の材料として利用することにより、 電気の消費を少なくして、冷房効率を大幅に改善する省エネ技術が可能になる。

従来、スマートウインドウでは順方向の電流で着色、逆方向の 電流で消色を行うエレクトロクロミック型の分子が利用されており、ビルの外窓、自動車のサンルーフや、飛行機の窓にも利用が検討されている。着色、消色の 両方に電力が必要なため、電流効率を改善することが模索されてきた。ヒントとなったのは河合教授がおよそ20年前に発見した現象で、光で着色するフォトク ロミック分子でも、電気によって色を消すことができる分子があるということである。この研究をヒントに分子に平面的な広がりを加えて電気化学反応を起こり やすくする方法を考えた。その結果、新しい分子では光照射によって創られる着色状態を電気で消色する事が可能になり、しかもその電流効率が2000%を超 えることを見いだした。通常の電気化学反応では電子1つで分子1つが反応する場合が理想的(効率100%)であるが、今回の研究成果では1電子で次々に 20個の分子の色を消すことができる点が画期的である。今後、スマートウインドウとして利用すれば従来の10倍以上の省エネルギー化が可能となる。この成 果は、アメリカ化学会誌に平成24年11月19日Web上で先行掲載された。

【研究の背景】
外光の状態に応じて光の透過率を変化 させ、外光の取り入れ量を調節する調光機能材料はスマートウインドウとして冷房効率の向上など省エネ技術への応用が期待されている。このような調光機能を 示す材料として、光に当たると色が変化するフォトクロミック分子がある。すでに我々のグループでは、100%の着色感度を有する超高感度フォトクロミック 分子を報告しているが、着色状態を無色状態に戻す消色に関しては数%程度と低効率で、効率の改善に取り組んでいた。そこで注目したのが、電流に伴う物質の 酸化・還元反応により色調が変化するエレクトロクロミズムという現象である。エレクトロクロミック分子は、電流を流す方向を逆にすることで着色・消色状態 を切り替える調光機能を有することからビル、自動車、および飛行機向けのスマートウインドウ用に応用が進められている。しかし、着色、消色にそれぞれ電力 が必要であり、理想的な反応効率においても1つの電子により反応できる分子の数は1つでその高効率化には限界があった。エレクトロクロミック材料の開発に おいても効率の改善は課題であった。

フォトクロミック分子の着色状態に電気を流すと消色する現象は約20年前に河合教授により発見されていたが、今回開発した分子はその電流効率が2000%と極めて高い値を示すことが明らかとなった。

【研究の手法】
現 行のエレクトロクロミック材料には、還元(または酸化)と中性状態の2状態間で着色状態の異なる分子が用いられている。一方、フォトクロミック分子はこれ らに加えて、光により生成する2状態が加わるため、電気と光を組み合わせることで物質は異なる4状態が生まれる(図1)。

今回開発した分 子1aは太陽光などの光照射により青色に着色した状態2aを形成する。2aに対して電流を流すと電気化学反応により酸化状態2bに変化し、さらに自発的に 1b(1aの酸化状態)へと速やかに(3秒で)変化する。こうして生成した1bは2bよりも強い酸化力を持っているため、近い距離に存在する他の2a分子 を酸化して2bへと導き、自身は無色状態の1aへと戻る。このように、一度電流によって2bが形成すると次々に2aが消失して1aが形成する反応が繰り返 される。分子レベルのドミノ反応と言うこともできる。言い換えると、実質的な電気化学反応である2aから2bへの変化は、電気に加え、2bから生成した 1bによっても引き起こされるため、一連の反応に必要な電気消費を押さえて連鎖的に反応を進行させることができる(図2)。

【結果】
着 色状態2aを含む溶液の電気分解による1aの生成をモニターした。通電時間とともに、青色溶液が消色していく様子が観察された。着色状態の変化と流れた電 流量を比較したところ、消費された電子の量に対し、約10倍の数の分子が青色の2aから無色の1aに変化していることがわかった。また、5秒ごとの電流効 率を見積もったところ、最大で2400%の電流効率を示すことがわかった。すなわち、1つの電子を流すと24個の2a分子が消色状態の1aに変化した。同 じ一電子酸化状態である1bと2bを比べると、1bの方がエネルギー的には安定であるにも関わらず、酸化力(反応性)は高いという安定性と反応性が逆転し た関係にあることがこの連鎖反応に貢献しており、フォトクロミック分子を用いた特徴とも言える。

今回の研究では、同研究科の廣田教授の協 力により酸化力の高い1bの寿命や反応速度の解析など詳細な連鎖反応のメカニズムについても解明することができた。今回、開発された分子1aは、同種の芳 香族5員環三つにより構成されており、広がった平面構造により酸化状態の安定性と反応性のバランスを調整することに成功している。

【今後の展望】
同 グループでは、すでに100%のフォトクロミック反応効率により着色する光センサー分子を報告している。これに、今回発見した高効率で消色反応を示すエレ クトロクロミック反応を組み合わせることで、自然光に含まれる紫外線により効率的に着色し、少量の電力によりその着色状態を制御できる省エネ型のスマート ウインドウの開発に期待がもたれる。また、光により書き込み、電気により消去する表示素子などへの応用の可能性も考えられる。

【研究支援】
今回の研究は奈良先端科学技術大学院大学の文部科学省特別経費「グリーンフォトニクス研究教育推進拠点整備事業」およびNAIST先端的研究連携事業の成果とされている。

【キーワード解説】
フォ トクロミック分子:フォトクロミック分子とは異なる波長(色)の光に応答して分子構造や色が可逆に変化する分子であり、光による可逆的な変色現象はフォト クロミズムと呼ばれる。フォト(光)とクローム(着色)という二つの言葉の合成語で、サングラスなどでは紫外線を含む太陽光線が当たると色が付き、室内で は自然に色が消えるフォトクロミック色素が使われている。古くからの顔料や染料の成分であるアゾ色素も、フォトクロミズムを示すものがある。

エ レクトロクロミック分子:エレクトロクロミック分子は電気化学的な酸化・還元によりその色を変化するエレクトロクロミズムを示す。省エネルギー性が期待さ れる表示素子(カラー電子ペーパー)や,エネルギーの出入りを制御できる調光窓に応用できる材料として注目されている。

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