植物の根の成長を調節する新たな仕組みを解明 ~根の長さを自在に操作 環境に適した植物バイオマス生産に期待~

2013/09/13

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原 直毅)バイオサイエンス研究科 植物成長制御研究室の 梅田正明教授・高橋直紀助教らは、植物の根の成長を調節する新たな仕組みを世界に先駆けて発見した。細胞分裂により細胞数を増やす根の先端部分の組織で、 植物ホルモンが引き金になって細胞内のDNA量の倍増が促進され、細胞を大きくするという機構を明らかにするとともに、その肥大化開始のタイミングが根の 成長スピードのカギになっていた。バイオマスの増産などにつながる成果と期待される。

植物の根は先端部分に活発に細胞分裂を行う組織(根 端分裂組織)を持ち、新しい細胞の生産、供給を行っている。この組織が大きければ大きいほど細胞分裂は盛んで、根の成長も速い。その後、細胞は分裂を停止 し、次いでDNA量を倍々に増やすことにより細胞を大きくする(DNA倍加)。こうしたことから、細胞分裂からDNA倍加への移行のタイミングが根端分裂 組織の大きさを決め、根の成長スピードを決定づける重要なファクターとなる。

梅田教授らはシロイヌナズナで細胞分裂からDNA倍加への移 行を促がす遺伝子(CCS52A1)の解析を行なった。その結果、この遺伝子に働きかける転写因子(ARR2)が植物ホルモンの一つであるサイトカイニン の作用により活発に働くことで、この遺伝子が活性化することがわかった。DNA倍加を促進する新奇な経路を発見したことで、根端分裂組織の大きさを調節し 根の成長スピードを制御するという植物の巧みな成長戦略が明らかになった。

植物にとって根は、水分や養分を吸収するとともに体全体を支え る最も重要な器官である。本研究の成果は、ARR2やCCS52A1の発現量を操作することにより、乾燥地など環境に応じて自在に根の伸長を制御する技術 開発につながる。植物の成長を促進し、植物バイオマスの増産をもたらす技術開発への波及効果も期待される。この研究成果は、文部科学省 新学術領域研究"大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析"の計画研究の一環として助成を受けて行われ、平成25年9月12日付けで Current Biology(オンライン)に掲載される予定である。(プレス解禁日時:日本時間 平成25年9月13日(金)午前1時)。

【解説】
植 物は動物と異なり、移動しながら栄養分を探すことが出来ないため、地中に根を張り巡らすことで成長に必要な物質を取り込む。こうしたことから、根は驚くべ き長さにまで成長する。例えばコムギの根は深さ120cm・幅60cmぐらい、トマトの根は深さ80cm・幅110cmぐらいにまで伸長する。

植 物の根は、水分や栄養分を吸収するとともに、植物体を支える重要な器官であり、その成長は植物体全体の成長を大きく左右する。植物の根は先端部分に根端分 裂組織と呼ばれる組織を持っており、細胞はそこで盛んに分裂を行っている。そして、根端分裂組織から出て分裂を停止すると、今度はDNA倍加を行うことに より細胞を肥大化させる(図1)。根の成長は根端分裂組織で細胞分裂がいかに盛んに行われるかによって決まることから、細胞分裂からDNA倍加へ移行する タイミングが根の成長スピードに大きく影響を与える。これまでの研究で、根端分裂組織での細胞分裂はサイトカイニンとオーキシンという2つの植物ホルモン 間の拮抗的な作用により制御されることが知られていたが(図2)、細胞分裂からDNA倍加への移行を直接制御するメカニズムは知られていなかった。

梅 田教授らはDNA倍加の制御機構を明らかにするために、DNA倍加を促進する遺伝子であるCCS52A1の発現制御について解析した。その結果、サイトカ イニンにより活性化される転写因子ARR2がCCS52A1遺伝子の発現を直接活性化することを明らかにした(図2)。ARR2−CCS52A1という分 子モジュールが細胞分裂からDNA倍加への移行に中心的な役割をもつことが示され、根端分裂組織の大きさと根の成長を調節する全く新奇な機構が明らかに なった。

【本研究の意義】
細胞分裂からDNA倍加への移行のタイミングが根の成長を決定する重要な要因であることから、本研究で 明らかにしたDNA倍加をコントロールする遺伝子(ARR2やCCS52A1)の発現量を操作することにより、根端分裂組織の大きさを自在に制御し、根の 成長を人為的に調節することが可能となる。例えば乾燥地で根の成長を促進し水分吸収を向上させれば、農作物の収量増加や植物バイオマスの増産をもたらす技 術開発につながるであろう。逆に水消費量の多い植物で根の成長を抑制すれば、土壌水分の枯渇を防ぎつつ植物バイオマスの効率的生産が可能となる。これまで 知られていなかった根端分裂組織の大きさを決める分子メカニズムが明らかになったことで、食料・環境問題の解決に向けた新たな戦略を見出すことができると 考えられる。

【用語解説】
●DNA倍加
細胞が分裂せずに、一つの細胞内で染色体が複製を繰り返す現象。結果的にDNAが倍々に増えていく。被子植物の約70%でDNA倍加が起きることが知られている。DNA倍加は細胞の成長(肥大化)をもたらすことが知られている。

●サイトカイニン
植物ホルモンの一種。サイトカイニンは細胞膜上の受容体により感知され、そのシグナルがやがてARR2などの転写因子に伝達され、様々な遺伝子発現を活性化する。その結果、例えば根では細胞分裂を抑制し、DNA倍加を促進する。

共同研究者は次の通り
  Pohang University of Science and Technology (POSTECH) 
    Ildoo Hwang▽Yoonhee Kim
  東京理科大学 理工学部  
    松永 幸大▽片桐 洋平

【関連リンク】
・論文は以下に掲載されております。
http://hdl.handle.net/10061/9172
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2013.07.051
(NAIST Academic Repository: naistar)
・以下は論文の書誌情報です。
Naoki Takahashi; Takehiro Kajihara; Chieko Okamura; Yoonhee Kim; Youhei
Katagiri; Yoko Okushima; Sachihiro Matsunaga; Ildoo Hwang; Masaaki
Umeda, Cytokinins Control Endocycle Onset by Promoting the Expression of
an APC/C Activator in Arabidopsis Roots, Current Biology, 12 September 2013

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