「重ね塗り」で有機薄膜太陽電池を高性能化 ~光を当てると固まる材料使い、有効性を実証~プラスチック上にも作製可能

2014/11/25

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原直毅)物質創成科学研究科の山田容子教授・鈴木充朗助教、山形大学(学長:小山清 人)大学院理工学研究科の中山健一准教授・山口裕二博士研究員らは、軽量で柔軟性などに優れた次世代の太陽電池として研究されている有機薄膜太陽電池の新 しい材料を開発し、太陽電池として動作することを実証しました。溶媒に溶かした材料を基板に塗布して薄膜を作製するタイプの半導体で、光を当てると常温で 不溶化して固まるため、材料を変えて重ね塗りしても混じらず、半導体の積層構造ができます。この方法で光から電気への変換効率を2倍以上に向上できたう え、今後、材料の組み合わせを自由に変えて高効率の半導体を設計し、プラスチックフィルム上に作製することも可能になります。

従来の塗布 型有機薄膜太陽電池(注1)では、バルクヘテロ構造(注2)と呼ばれるp型(電子を供給する側)とn型(電子を受け入れる側)の半導体を混合した層を一層 だけ成膜する方法が主流でした。それは材料が溶媒に溶けるため、重ね塗りによる積層構造を作製することが困難であるためです。

本研究グ ループでは、溶媒に溶かして基板上に塗布した後に、光を当てることで不溶化する有機半導体材料を開発し、室温条件下、溶液プロセスでp-i-n積層構造 (注3)の太陽電池を作製することに成功しました。積層構造が可能なので、p層とi層(中間層)にそれぞれの役割に適した構造の化合物を使うことができる ようになり、テイラーメイドの化合物を利用することが可能になりました。その結果、同一材料のバルクへテロ型太陽電池に比べて、変換効率で2倍以上の向上 が確認されました。

本手法は光を使った不溶化であるため、室温または穏やかな条件で結晶性の薄膜を作製することが可能です。また光照射の 条件や材料の構造をうまく調整することで薄膜の構造を制御でき、さらに各層に適した異なる材料を組み合わせられることから、従来のバルクヘテロ構造よりも デバイスの設計自由度が増し、将来的な高効率化が見込まれます。

本研究成果の一部は、JSTの戦略的創造研究推進事業CRESTの「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」研究領域(研究総括:山口真史)の研究課題「革新的塗布型材料による有機薄膜太陽電池の構築」(研究代表者:山田容子)によって得られました。

本研究成果は、平成26年11月21日(英国時間午前10時)(プレス解禁日時:日本時間 平成26年11月21日(金)午後7時)に一般科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されます。

【解説】
〔研究背景〕
フ レキシブルな基板の上に大面積の有機デバイスを安価に作製する手法の開発が有機デバイスの発展には必要であり、そのために、印刷技術を使ったプリンタブル エレクトロニクスの研究が盛んに行われています。プリンタブルな材料は高分子に代表されますが、溶媒に溶けるために積層が困難です。それに対し、前駆体を 使う方法は、通常は溶媒に溶けにくい低分子結晶性の有機材料を塗布出来る点に特徴があります。

アセンの前駆体としてはIBMなどが熱変換 前駆体(注4)を報告し、塗布型有機薄膜トランジスタに応用しました。また、熱を加えることにより変換する前駆体を利用した塗布型有機薄膜太陽電池として は三菱化学/東大によるベンゾポルフィリン・フラーレン誘導体の系が報告されています。熱変換前駆体は、前駆体から半導体への変換に200℃前後の高い温 度を必要とします。

一方、今回報告する光変換前駆体(注5)は、変換反応自体は室温/低温で進行するため穏やかな条件での成膜が可能で す。これまでに我々は、光変換前駆体法を利用した塗布型有機薄膜トランジスタや、変換前後で発光特性を大きく変化させる潜在性発光材料などを報告してきま した。今回、光変換により溶媒への溶解度が低くなる特徴を利用して、塗布積層によるp-i-n型太陽電池の作製を行いました。

〔特徴・効果〕
光 変換前駆体は溶液に溶かした材料を遠心力利用のスピンコート法などで薄膜にした後、光を照射して構造変換を引き起こし、半導体材料へと変換することができ ます。化合物の構造変化に伴い、溶解度を下げて難溶性とすることが出来るため、スピンコートと変換を繰り返し、おだやかな条件で積層構造を作ることが可能 になりました。その結果、これまで溶液プロセスでは難しかったp-i-n構造の実現に成功しました。p-i-n構造は、バルクへテロ構造に比べてキャリア の取り出しなどに優れており、溶液プロセスによる、デバイス作製の可能性を広げることが期待されます。

今回の論文では、p層とi層のp型材料にそれぞれに適した材料を用いて、性能を向上させることにも成功し、我々のコンセプトが正しいことを実証しました。今後は、p層とi層のそれぞれに適した材料を開発することにより、より一層の性能の向上が見込まれます。

〔今後の展開〕
塗 布型の積層有機薄膜太陽電池への展開が期待されます。加熱を必要としない温和な条件で有機半導体を成膜できるため薄くて柔軟なプラスチックフィルムなどの 上にも高性能有機太陽電池を直接作製することが可能になると期待されます。その他、光変換前駆体の光反応を利用した応用としては塗布型有機薄膜トランジス タ、有機ELのホール輸送剤、潜在性発光材料などへの展開が考えられます。

〔用語解説〕
(注1)有機薄膜太陽電池:現在主流のシ リコン型太陽電池のかわりに、有機材料を活性層に用いた太陽電池。高分子を用いたものと低分子を用いたものが有り、高分子の場合は、塗布型バルクへテロ 型、低分子は蒸着による積層型が主流です。最近溶媒に溶ける低分子を用いたバルクへテロ型の研究も増加しています。

(注2)バルクへテロ構造:活性層にp材料とn材料の混合層を用います。p材料には高分子、可溶性低分子が多く用いられており、n型材料はフラーレン誘導体が主流です。材料が溶媒に溶けるため、積層構造をつくることは困難です。

(注3)p-i-n積層構造:バルクへテロ層をp層とn層で挟んだ積層型太陽電池。蒸着による作製が主流です。

(注4)熱変換前駆体:有機半導体に脱離可能な置換基を導入することで可溶化し、成膜後加熱することで定量的に有機半導体へと変換することができます。通常は180度以上の高い温度を必要とします。

(注 5)光変換前駆体:有機半導体に脱離可能な置換基を導入することで可溶化し、光を照射することで定量的に有機半導体へと戻すことができます。この光反応は 溶液中/薄膜中/固体中で定量的に反応し、精製を必要としないので、塗布と光変換により、半導体薄膜を作製することが出来ます。また、結晶成長させるため に、80℃程度の穏やかな温度を加えることはありますが、反応自体は室温/低温で進行するためプラスチック基板なども利用可能です。

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