苦手なコミュニケーションを円滑にする訓練の自動化システムを開発 ~人とコンピュータの音声対話で指導~

2015/03/13

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原直毅)情報科学研究科知能コミュニケーション研究室の中村 哲教授、戸田智基准教授、Graham Neubig(グラム・ニュービッグ)助教、Sakriani Sakti(サクリアニ・サクティ)助教、博士後期課程の田中宏季氏らの研究グループは、奈良教育大学(学長:長友恒人)特別支援教育研究センターの岩坂英己教授、根來秀樹教授らと共同で、これまで臨床心理士などが実施していた、対人関係や集団行動を円滑にするための認知療法「ソーシャルスキルトレーニング」をコンピュータで自動化する技術を開発した。この技術により自閉スペクトラム症などのコミュニケーションを苦手とする人が、いつでもコンピュータを用いてトレーニングを受けることが可能となり、実験でも被験者の能力の向上が確認された。

【研究成果】
コミュニケーションが苦手な人をトレーニングする対話システムを作るために、従来の認知行動療法であるソーシャルスキルトレーニングの枠組みを参考にしてシステムを作製した。このシステムは「自動ソーシャルスキルトレーナ」と名付け、実際のソーシャルスキルトレーニングの過程を模して人間とコンピュータのアバター(仮想の分身)とのやりとりを自動化するシステムの開発を実現した(図1参照*)。

システムは、音声および言語情報を認識したうえで、ユーザに解析結果をフィードバックして提示する形で訓練を行う。システムの設計は、従来のソーシャルスキルトレーニングの枠組みに沿っており、課題設定から、モデリング、ロールプレイ(役割演技)、フィードバック、正(良い方向の行動)の強化、宿題までの各段階を含んでいる。

訓練ではユーザがシステム上の仮想的なアバターと音声対話していく中で、コミュニケーションのスキルを学習していくことになる。

本研究では、課題設定として「上手に話を伝えるトレーニング」を対話システムに実装した。まずモデリングのステップでは、ユーザはあらかじめ収録した、上手に話を伝える人の動画を視聴し良い点を学習する。次にロールプレイとして、ユーザがアバターに向かって、1分間で「最近あった出来事」を伝える。その際、アバターは聞き役として頷きなどの反応をし、同時にユーザの音声と動画も収録する(図2参照)。収録したデータから、ユーザの言語・非言語情報(声の周波数や明瞭性、1分間の単語数、6文字以上の単語割合など)を検出し、それを標準的なモデル(モデリングで使用した話者達)と比較して、良かった点と改善点をユーザに提示する。ここで正の強化として、良かった点を伝えることによりユーザを褒める。ユーザはフィードバックを見ることによって、自分の話の伝え方について客観的なアドバイスを受けることが可能になる(図3参照)。

大学院生が本システムを使用したトレーニングを受けたところ、従来の本によるトレーニングを行った群と比較して、有意に話を伝えるスキルが向上することを確認した。また1名の高機能自閉スペクトラム症の児童が本システムを使用したところ、話を伝えるスキルが向上することが確認された。

*システムは名古屋工業大学で開発されたMMDAgent(http://www.mmdagent.jp/)を対話システムとして使用している。

【研究の背景】
私たちの生活において他の人と関わる状況というのは非常に多く存在する。例えば、雑談、プレゼンテーション、友達と遊ぶ、上司への報告など。これらのコミュニケーションのスキルは人との関係作りにおいて重要であり、生活の質(QoL)とも密接に関わっていることが近年わかってきている。一方で、コミュニケーションを苦手としている人々の傾向として、コンピュータを相手に仕事をするなどの人的な交流とは無関係な環境において高い能力を発揮することがわかっている。こうした背景から、対話システムをコミュニケーション支援に応用するような研究プロジェクトを奈良教育大学特別支援教育研究センターと共同で本年度からスタートさせた。

【社会への影響】
本研究は、コンピュータを用いたコミュニケーション支援を実現するものであり、ユーザはいつでもソーシャルスキルトレーニングを受けることが可能となる。とくに、自閉スペクトラム症などのコミュニケーションを苦手としている人のトレーニングに役立つことができる。

本研究の成果の一部は、平成26年11月14日に電子情報通信学会、教育工学研究会で発表され、研究奨励賞を受賞した。また、最新の成果が平成27年3月31日からアトランタで開催される「IUI2015」にて学会発表される。

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