さっぽろ雪まつりの高精細な8Kライブ映像をそのまま圧縮せず伝送する実験に成功 シンガポールからも国際伝送 ~2020年東京五輪までの普及めざす~

2018/02/28

さっぽろ雪まつりの高精細な8Kライブ映像を
そのまま圧縮せず国際伝送する実験に成功 シンガポールからも発信
~2020年東京五輪までの普及めざす~

【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:横矢直和)情報科学研究科情報基盤システム学研究室(教授:藤川和利)の油谷曉助教、同研究科ネットワーク統合運用教育連携研究室の小林和真教授らは、国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が主催する「さっぽろ雪まつり」開催時の実証実験において、複数の参加組織とともに、2018年2月5日から7日にかけて札幌・大阪・シンガポールなどの複数拠点を結んで、4K映像より4倍緻密な8K映像の「非圧縮8K超高精細映像伝送実験」を行いました。また、2月6日17時~21時の間には、グランフロント大阪にて公開実験プレビュー(デモ)も披露しました。

 今回は、一般的な映像伝送で用いられるデータ圧縮を用いずに、8K映像を非圧縮のままインターネットを使用しての遠隔伝送実験でした。そこで、ネットワークトラブルにも強固に対応しながら通信帯域の有効利用が可能な配信を実現するため、複数の伝送経路を使って信頼性を高める「マルチパス冗長配信(※1)」と、複数の受信先に同時配信できる「IP(インターネットプロトコル)マルチキャスト(※2)」技術を併用させた手法を用いて映像分散配信実験を行い、その有効性が実証できました。

 本実験により、2020年の東京五輪をはじめ、放送分野での放送局間や中継地点からのライブ映像伝送で、IPネットワークを用いた伝送が実用化できる可能性を示しました。一方、医療・芸術・美術の分野においても、リアルタイムで送信できるうえ、映像ノイズが一切発生しない超高精細映像の配信への応用が大いに期待できます。

【背景】

 8K超高精細映像は4K映像よりも4倍緻密な映像を作り出すことが可能で、2020年に開催される東京五輪に向けて実証実験や検証を終えて本放送や家庭への普及を目指す計画が進んでおり、まず2018年12月よりBS放送で実用放送が始まります。この放送電波以外に8K映像を伝送する手段として、IPネットワークを介してデータの送受信を行うことが挙げられます。IPネットワークの使用は、世界中に超低遅延で圧縮ノイズを発生させない映像の伝送を行うことが可能であり、放送電波より優位であると考えられます。

 これまでも8K映像のIPネットワーク伝送の実証実験を行って来ましたが、今回、ライブ映像をリアルタイムで伝送する場合、通信経路の回線等で発生するデータ喪失による映像の乱れが一切起こらないような仕組みを提案し実証実験を行いました。

【実験内容】

 8Kライブ映像をリアルタイムで伝送する場合にデータ喪失による映像の乱れを一切発生させないためには、これまでのバックアップ通信経路への切り替え配信を行う手法では不十分であると考え、複数の通信経路への映像の同時送信を行うことが必要であると考え実験を行いました。

 この同時送信の手法を実現させるためにマルチパス冗長配信を応用し、送信側で映像データの複製を行いながら複数の通信経路への送信を行い、受信側では重複して到着するデータの重複部分の削除処理をリアルタイムで行うことにより実現しました。さらに、複数の受信先に対して効率的にデータ配信を行うためにIPマルチキャスト技術も併用し、多地点で同時に受信することが可能になりました。

 膨大なデータ量がある8K映像の超高精細画質を保つために、一般的な送信時の圧縮処理を行わずに映像伝送行うためには、約25Gbpsの広帯域のIPネットワークが必要になります。今回の実験では、さっぽろ雪まつり会場と大阪会場との間に100Gbpsの2本の通信経路、シンガポールと大阪会場との間にも100Gbpsの2本の通信経路を構築し実験を行いました。特に、シンガポールとの2本の通信経路は、今後の世界規模での配信を意識した模擬実験と位置付けるために、香港経由の回線と米国経由の回線の2経路を用意して実験を行い、100ms程度のデータ到着時間の差はマルチパス冗長配信とIP伝送装置の応用で充分吸収可能であることを実証しました。加えて、2本の通信経路の片側を物理的に切断させた状況を作り上げても、映像の乱れを一切発生させることがありませんでした。

 今回の回線は、情報通信研究機構(NICT)のJGNと国立情報学研究所(NII)のSINET5の協力により札幌・大阪間に2本の通信経路を、NICT JGNとシンガポール先端研究教育ネットワーク(SingAREN)および米国の複数の研究開発教育ネットワークとの国際連携により太平洋を一周する2本の通信経路を構築しました。(図参照)

 本実験は、NICT、NII以外に、神奈川工科大学、北海道テレビ放送株式会社、シャープ株式会社、アストロデザイン株式会社、株式会社PFU、池上通信機株式会社、株式会社朋栄、キーサイト・テクノロジー合同会社(旧イクシアコミュニケーションズ株式会社)等の協力を得て実施いたしました。

【成果と展望】

 8K映像の送信に複数のIPネットワーク経路を同時に使用するマルチパス冗長配信を使用することで、途中の物理的な回線障害が発生しても映像が一切途切れもなく再生できることを実証しました。また、IPマルチキャスト技術を併用することで、複数拠点からの選択映像受信とより効率の良い通信を行うことが可能なことも実証しました。

 これらの成果により、放送分野での局間や中継地点からのライブ映像伝送において、IPネットワークを用いた伝送が実用化できる可能性を示しました。一方、医療・芸術・美術分野においても、リアルタイムで配信でき、映像ノイズの一切発生しない超高精細映像の配信への応用が大いに期待できます。

【用語解説】

  • (※1) マルチパス冗長配信:
    冗長性を確保するために、複数のパス(通信経路)に対して複製した同じデータの配信を行う手法。全てのパスが同時に切断やデータ欠損などの障害を発生させない限り、配信データを補完することが可能になる。ただし、受信側で、到着したデータをリアルタイムで重複削除するための処理が必要になる。
  • (※2) IPマルチキャスト:
    通常のユニキャストと呼ばれる一対一の通信とは異なり、一対多の通信を送信元から複数の宛先をもつグループに対して 1 回のみ送信することで一対多を実現する仕組み。受信側からの接続要求に応じて伝送に必要な経路を選択する機能を持つため、必要があれば通信途中のルータで送信データの複製を行うことで要求に応じた通信が可能になる。結果的には、通信経路上にデータの重複や余分な伝送経路が出現せず、最小限のネットワーク帯域の利用で効率の良い伝送が可能になる。一般的には、同じ動画コンテンツを同時に多数の受信者が視聴する場合、送信側付近に通信の集中が発生することになるが、この IP マルチキャスト技術を利用することでこの集中を回避している。

【参考図】

図1
<実証実験構成概要>

【公開実験プレビューでご覧いただいた主な内容】

<札幌の雪まつり会場から映像伝送>
 本実験参加組織の協力により8Kカメラで雪像および会場の風景を撮影し、ライブで映像を中継しました。

<シンガポール会場から映像伝送>
 JGNアジア100Gbps回線を利用し、8Kカメラで撮影したシンガポール各地の録画映像を配信するとともに、当日の会場風景をライブで中継しました。

  • 日時:2018年2月6日(火)17:00~21:00
  • 会場:グランフロント大阪 北館 2F/ 『The Lab.』内 アクティブラボ

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科情報基盤システム学研究室 助教 油谷曉
TEL:0743-72-5143  E-mail:yuta@itc.naist.jp

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