本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された343名の皆さん、博士後期課程に入学・進学された78名の皆さん、そしてそのご家族の方々に、本学の教職員を代表してお祝いを申し上げます。

 また、皆さんの新たなスタートをお祝いするためにお越しくださった、ご来賓の方々に心よりお礼を申し上げます。

 さて、皆さんが入学された本学は、特徴のある、ユニークな大学です。まず、奈良先端科学技術大学院大学という名前は、日本全国の大学の中で最も長い名前の一つです。友達に自分の大学の話をする時、大学の名前を噛みそうだなと思ったら、広報用に商標登録した「奈良先端大」という略称を使っていただいてかまいません。

 また、「大学院大学」という名称から明らかなように、この大学には学部がありません。日本の大学院は、一般的に学内進学者が多いのですが、本学にはさまざまな大学、学部や高等専門学校の卒業生、そして社会人の方々が入学してきます。海外からの留学生も多く、本日入学された新入生の皆さんの中には、世界14の国・地域からの45名の留学生がおられ、奈良先端大に在籍する学生全体では約4人に一人が海外からの留学生という国際的なキャンパスとなっています。

 多様な属性、知識、経験は、科学技術の研究に必須である発想の創造性と変化への柔軟性を生み出し、また、多様な人々と関わることで、私たちは自分自身のそれまでの価値観を客観的に見つめ直し、自らの可能性を拡げることができるようになります。本学の特徴である多様性の価値を構成員が認識し、一人ひとりの違い・個性を尊重するコミュニティー文化を育てていくという理念を明文化した「共創コミュニティー宣言」を策定し、本学ホームページなどで公表しています。皆さんも是非、読んでみてください。

 この「共創コミュニティー宣言」の「共創」とは英語の "co-creation"の日本語訳で、共に創ると書きます。実はこの「共創」の考え方は、奈良の大仏さまに通じるものがあるように思います。一人ひとりがそれぞれの花を咲かせ、その様々な花でこの世の中を飾る、これを雑華厳浄(ぞうけごんじょう)と言い、その様々な花で飾られたこの世全体あるいは宇宙を体現するのが盧舎那仏、すなわち大仏さまなのだそうです。多様な学生・教職員がそれぞれの花を咲かせ、共創することで、大学のミッション実現を目指す本学が奈良にあるのも大変、意義深いと言えそうです。

 構成員の多様性に加え、本学のもう一つの特徴として、大学の規模が比較的小さいということがあります。近隣にあります京都大や大阪大に比べると本学の学生数は約1/20です。米国の心理学者 Angela Bahnsの研究によると、小さな大学では考え方や行動、信条などの異なる学生どうしのネットワークができやすいのだそうです。これに対し、学生数の多い大きな大学では、選り好みをしながらなるべく自分と似た人間を探す「社会的ネットワークの微調整」が繰り返され、似たもの同士の均質なネットワークが形成される傾向があると言われています。

 同じようなことが、「社会的ネットワークの微調整」が容易なインターネット上でも起きることが知られています。世界中の多様な人々を簡単に結びつけることができるのがインターネットですが、SNSなどではかえって似通った主張やものの見方を持った者同士が繋がったグループができあがります。そのグループ内で自分の意見を発信すると、それに対する同意や似かよった意見しか返ってこない「エコーチェンバー」と呼ばれる現象が起き、特定の情報や信念が増幅されて、外から見ると全くおかしなことさえ信じこんでしまう危険性が高まります。

 多様な構成員からなる奈良先端大に入学された皆さんは、是非、自分とは異なった経験や考え方、バックグラウンドを持った人たちとのネットワークを作ってください。それを本学での学びの一部として自らの「内なる多様性」を拡げ、深めることで、多面的な視点、そして発想の創造性を高めるとともに、卒業後も是非、本学で作った人的ネットワークを活用してもらいたいと思います。

 最後に、学外の方々から見た奈良先端大の特徴について紹介します。日本経済新聞社と日経HRが昨年、発表した「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」によると、全国の大学の中で奈良先端大の学生は「行動力」で1位、行動力を構成する「チャレンジ精神」と「主体性」の項目でそれぞれ全国1位と3位にランクされています。最先端の科学技術分野において学位論文研究に自ら取り組むことが学びの中心である本学ならではの評価であると思います。これらは、皆さん方の先輩にあたる本学の卒業生が企業の方々から受けた評価ですが、これから本学で学ぶ皆さんがここで磨いていく、磨くことのできる資質であるとも言えます。

 本学のモットーは "Outgrow your limits"、「自らの限界を打ち破れ」という意味です。「行動力」「チャレンジ精神」「主体性」以外にも、皆さんには自分ではまだ気づいていない大きな可能性が眠っているはずです。本学は、皆さんが自身の新たな可能性を発見し、それまで思い込んでいた自分の限界を超えて、成長することを可能にする場所なのです。

 ようこそ、奈良先端大へ。

2023年4月5日
奈良先端科学技術大学院大学
学長 塩﨑 一裕