Transformative

画像:学長 塩﨑 一裕
奈良先端科学技術大学院大学
学長 塩﨑 一裕

 Transformative(トランスフォーマティブ)という英単語は、「変革的な」などと訳され、何かを本質的に変える、あるいは変化や進歩をもたらすことを示す形容詞です。学部を持たない独立大学院というユニークな国立大学として1991年に本学が創設された背景には、わが国の科学技術研究、および人材育成のあり方に変革をもたらすという狙いがありました。

 大学の学部では既存の学問体系に沿った教育研究が行われることが多いため、併設された大学院組織の再編や転換などにも制約が生じがちです。一方、学部を持たない奈良先端大では、科学技術分野の急速な進展に対応した柔軟な教育研究体制の整備ができるという特徴があります。

 また、学部がないゆえに、国内外さまざまな大学・学部、高等専門学校の卒業生、社会人を本学の大学院プログラムに受け入れていることは、学生の流動性と多様性の向上につながります。学内進学を中心とする日本の大多数の大学院と一線を画す本学学生の多様性は、多彩なバックグラウンドを持つ学生が協働し、かつ切磋琢磨する欧米の大学院のそれに近いと言えます。

 奈良先端大は、大学院の国際化という変革も目にみえる形で先導してきました。春と秋、年2回の入学を制度化し、日本語だけでなく英語でも科目履修・研究指導・学位認定を可能にすることで、現在、学生の4人に1人は世界40の国・地域からの留学生となっています。日本にありながら、海外の大学院で学ぶかのような、グローバル人材の育成環境を実現しているのです。

 本学は、修了生のキャリアパスの拡大についても、変革と言える成果をあげています。日本の大学院修了者、特に博士号取得後の進路は、大学教員などアカデミアに限定されがちなことが問題となっていますが、奈良先端大の博士課程修了者は近年、半数以上が企業や官公庁に就職しています。研究者はもちろん、社会で広く活躍できる人材を輩出する人材育成とキャリア支援は、本学の強みです。

 立ち止まることなく、奈良先端大はこれからも新事業に取り組みます。本学は文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業 (J-PEAKS)」に採択され、生産年齢人口の減少が進む日本において、研究開発力の維持・拡大を可能にする新たなモデルの確立を目指します。高度人材の育成に加え、研究の自律化・データの利活用に基づくオープンイノベーションなど、研究開発の未来像を追求します。

 奈良先端大は自らを変革し、そして社会の変革を先導する大学として、これまでも、そしてこれからも、"transformative"という形容詞がふさわしい大学であり続けます。


2025年4月1日
奈良先端科学技術大学院大学長 塩﨑 一裕