けいはんな地区におけるイノベーション創出と奈良先端大の役割

 平成28年4月から第3期中期目標期間が開始となり、各国立大学はそれぞれの強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出すことが求められています。

 本学としても、「先端科学技術分野における教育研究の強み・実績を踏まえ、国際競争力を一層強化するとともに、科学技術の大きな変化と新たな社会的要請に応えるために教育研究体制を一新し、先端科学技術研究の新たな展開を先導する国際的な教育研究拠点としての地位を確立する。」との機能強化ビジョンを掲げ、教育研究の更なる充実に向けた取り組みを加速させています。

 今回の懇談は、本学が所在するけいはんな学研都市(大阪府、京都府、奈良県にまたがる京阪奈丘陵に立地する関西文化学術研究都市の愛称)の振興に取り組んでいる「公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構」常務理事 瀬渡 比呂志 氏、けいはんな学研都市において、情報通信に関する基礎的・先駆的研究開発に取り組んでいる「株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)」社長 平田 康夫 氏を本学にお迎えし、「けいはんな地区におけるイノベーション創出と奈良先端大の役割」をテーマに実施しました。

<出席者・略歴>

瀬渡常務

瀬渡比呂志 氏 (公財)関西文化学術研究都市推進機構・常務理事

昭和54年3月京都大学工学部建築学科卒業。
同年4月宅地開発公団、平成11年10月都市基盤整備公団、同16年7月独立行政法人都市再生機構、同19年6月西日本支社ニュータウン事業ユニット業務管理チームリーダー、同20年6月西日本支社大阪駅北都市整備事務所長、同21年12月西日本支社都市再生業務部長、同24年4月西日本支社ニュータウン業務部長、同25年4月西日本支社関西文化学術研究都市事業本部長を歴任され、平成26年4月から現職。

平田社長

平田康夫 氏 (株)国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役社長

昭和42年3月京都大学大学院修士課程修了(電子工学専攻)。
昭和42年4月国際電信電話㈱(現KDDI㈱)入社、平成6年6月国際電信電話㈱取締役、同13年6月KDDI㈱取締役執行役員専務技術開発本部長、㈱KDDI研究所代表取締役会長などを歴任され、平成19年6月から現職。

学長

小笠原直毅 奈良先端科学技術大学院大学・学長

昭和45年3月東京大学教養学部基礎科学科卒業。
昭和50年10月金沢大学がん研究所助手、同60年4月金沢大学遺伝子実験施設助手、昭和60年9月大阪大学医学部助手、講師を経て、平成5年4月奈良先端大学バイオサイエンス研究科教授に就任、その後、バイオサイエンス研究科長、理事・副学長などを歴任し、平成25年4月から現職。

【国立大学の役割や期待すること】

国立大学全体の役割や期待について、お考えをお聞かせください。

平田 国立大学には様々な地域性があると思います。地域に密着した教育や研究をやっていただきたいと期待しています。それはすごく大事な視点だと思います。
 もちろん、世界トップレベル、あるいは世界に発信するグローバル化も大切ですけれど、あくまで地域にある大学、という意識を持ち続けることも大切ではないでしょうか。
 そしてもう一つ、教育と研究を厳密に分けるのではなく、一体的に考えていくことが必要ではないかと常に思っています。

小笠原 確かに、教育と研究の一体化は、特に大学院レベルでは必要ですね。

平田 はい、大学院レベルに関しては疎かにはできないと思います。

小笠原 教育と研究が互いに良い相乗効果があり、上手に回っていくようなシステムが欲しいということですね。

平田 そうですね。最終目的は人材の育成ですからね。

瀬渡 一人の国民として期待することは、意欲ある学生への経済支援や、自らの意欲に基づいて能力を伸ばせるよう物事の本質を突き詰めて思索し学ぶことができる型にはまらない多様な人材を育ててほしいということです。直ぐに成果が生まれないかもしれませんが、あまり締め付けないで伸び伸びとさせることも重要かもしれません。

小笠原 それは全体として余裕がないということですね。

平田 詰め込むだけの教育では、将来の伸びしろは期待できなさそうですね。

厳しい財政事情の中で、未来への投資という観点から、国立大学への支援の在り方について、お考えをお聞かせください。

平田社長

平田 資源が少なく、少子化が進む日本では人材の育成というのは非常に大切です。付加価値やイノベーションを生み出す人材を育てるという、未来への投資は絶対に必要です。そういう意味で、地域に貢献する人材の育成に向けた取組などに国が重点支援することは非常に有益だと思いますが、国立大学が担っている機能の多さを考えると、国の支援の総額が減少するのでは何にもならないと思います。国立大学では基礎的な研究費を教員に配分できなくなりつつあるという報道も耳にしました。メリハリをつけることは大事ですが、光が当たりにくい基礎的な研究への支援をなくしてしまうのは避けるべきです。

小笠原 国立大学の運営には国からの運営費交付金が大きな位置を占めていますが、運営費交付金がトータルで減っていくというのは、由々しき問題です。法人化以降の10年で国立大学全体では10%も減っています。教育研究の活力を維持するため、まずは運営費を削り、人件費には手をつけないように頑張ってきましたが、多くの大学で人件費を削減せざるを得ないところまできています。

平田 奈良先端大はけいはんな学研都市にある唯一の国立大学です。国立大学の大切な役割のひとつとしての「地域貢献」についてはぜひ頑張っていただきたいです。これをしっかりやっている限り、国立大学を応援する声は大きくなることはあっても小さくなることはありません。

小笠原 本学における地域とは、自治体単位ではなく、けいはんな学研都市を構成するけいはんな地域だと思っています。そして、新しいイノベーションの創造はこの地域の大きな任務であり、実際、新しいイノベーションの創造が可能な企業が集まってきています。本学も、それらと連携してイノベーションの創造を目指すという地域貢献が重要と考えています。

瀬渡 学研都市における奈良先端大の存在価値は圧倒的に大きいです。

平田 国立大学として、「学長の裁量と柔軟性」、これが運営費交付金等の経営資源を運用する上で、絶対に必要だと思います。
 国立大学も、企業経営と共通しているところがあると思いますね。社長の権限が何も無くて事業部が全部勝手にやっているというのではなく、ある程度は、社長、CEOの権限、裁量権が必要だと感じています。

小笠原 本学では学長が予算をチェックできるようになっており、大学として重要なことに必要な予算を配分できるようなシステムを構築しています。ただし、将来を考えて、大胆にここにお金を付けたい、という余裕はほとんどないことが残念です。

【オープンイノベーションの創出と大学の役割】

けいはんな地区に所在する機関として本学に対するご意見やご要望などをお聞かせください。
瀬渡常務

瀬渡 私はこれまで、ニュータウンづくりという観点からけいはんな地区に関わってきました。2年前にここへ来て、新たな立地企業進出の大きな動きを強く感じています。それは、それぞれの企業がこの地域の将来性に賭けておられて、その根拠の一つに、これまで30年近くやってこられた奈良先端大やATRの存在があると思います。
 つまり、1社だけでは乗り切れないこの時代に、この地域への着目が始まっています。その核の一つとして奈良先端大の存在は非常に大きいです。そして、それをどう実際に活用していくかはまさにこれからではないかと強く感じました。立地企業も情報通信系が多かったのがバイオなどの分野へも広がりましたし、業態も大企業からベンチャーまで、一気に多様化してきています。地域が多様化することによって深みのある強靭な地域が形成され、そのことによって地域の価値が高まります。今まさに、様々な動きが、地域の価値そのものを高めているように思います。このタイミングをどう使うかです。

小笠原 そこは、やはりオープンイノベーションが重要なキーワードでしょうか。

平田 私はこちらに来て10年ですが、ここ5年、けいはんな学研都市は、立地機関や人口も着実に増え、右肩上がりで活気が出てきました。今後さらに発展させていくためには、やはり大学の存在が非常に大きいと思います。

小笠原 オープンイノベーションで異分野の企業が連携するためには、大学が企業と企業の間に入らなければなりません。

瀬渡 そう、大学が企業の上部に行くのもいけないし、単なる事務局でもいけません。

学長

小笠原 奈良先端大においても、最近、企業との共同研究費が増えてきています。その要因ですが、前副学長で今も特任教授でおられる村井(眞二)先生が、大企業とブレーンストーミングを行いながら、将来を見据えた大型共同研究をやろうということを提案され、まず、ダイキンとプロジェクトを始めたことがあります。ダイキンの名誉会長が本学の経営協議会委員だったこともあり、3年計画の研究プロジェクトを三つ開始しました。そして次はヤンマーが参加し、今はサントリーとも契約して具体的に何を行うかを検討中です。つまり、先生個人レベルではなく、組織として議論し共同研究をやろうという取り組みを進めています。

平田 様々なけいはんなの企業と連携して研究されることは非常に大切な取り組みだと思います。

小笠原 企業側が納得されれば、例えばA企業、奈良先端大、B企業という形のオープンイノベーションも面白いのではと思っています。

平田 オープンイノベーション実現のために大学が果たす役割は大きいと思います。産学連携だけでなく、産産連携のためにも大学が果たすべき役割は重要ですね。多くの企業との連携になればなるほど、この地域の価値が出てきます。その時、大学の価値は、ますます高まると思います。

瀬渡 大学と企業がどう対等に連携できるかが大事だと思います。企業としても、自分の所で研究し、様々な企業と対等に連携できて、更に奈良先端大やATRと組めるとなれば、うちもやってみよう、となると思います。

小笠原 その研究テーマを今後どうやって見つけていくかが課題ですね。

【ここが中心だ、というアピールを】

瀬渡常務

瀬渡 けいはんな学研都市をつくることになった30年前といえば、「企業も基礎研究から始める時代がきた」と言われていたと思います。基礎研究からやらないと次の時代がつくれない、という意識でけいはんなに立地している企業の研究所は頑張ってこられたと思います。ところが、今は1社だけでは乗り切れないという時代になってきました。

小笠原 でも、1社だけで、自分の技術で乗り切れると考えている企業も結構あるのでは。一方で、足元をひっくり返されるのに備えて、次の投資をしていこうという企業もありますが。

瀬渡 まだ、本当に切羽詰まったところまではきていないということでしょうか。

平田 その時は企業のトップが先見性を持ち、リーダーシップを発揮して、だからこそ頑張れと、言うかどうかです。

瀬渡 頑張れ、と言っている企業だけ集まっていただいてもいいですね。でも実際は、人間同士の信頼関係がないと簡単にはいかないと思います。

小笠原 その辺が、これから本学とけいはんなの関係でやりたいことかなと思います。今までも連携研究は行っていますが、それをもう少し様々な意味で充実させていきたいと思います。

平田 そういった連携の仕組みを充実させると同時に、さらに積極的に情報を発信していくしかないですね。情報発信は、けいはんな学研都市全体でも進めていますが、まだまだ東京一極集中で、我々の産学官連携も含めて、けいはんなでどの様な研究や教育活動をしているかの情報が十分に届いていないように感じています。

小笠原 ここにしかない研究内容や研究成果、または、ここが中心だ、というのを前面に押し出してアピールしたいですね。
 例えば、植物でいえば花がどうやって形成されるか、それをどうコントロールできるかという研究は本学発です。このような研究成果を掲げて企業と組み、こういう実用の展望があります、というところまでアピールすべきでしょうね。また、ATRの川人先生達の脳情報科学の研究など、具体的なオンリーワンの技術をもっとアピールしていければと思います。

瀬渡 ここでないとできない、ですね。連携する側の企業がこれだけ集まっている地域というのは、滅多にないと思います。

平田 最近、大学との連携の可能性を期待してけいはんな学研都市へ移って来られている企業も多いですね。

瀬渡 そうですね。その価値をさらに発展させるのに、具体にその事業が興れば、外に発信できます。

【地域と連携した人材育成】

小笠原 お聞きしたいのですが、ATRは企業とはいえ研究機関であり、コンスタントに奈良先端大から学生さんを受け入れてもらっていますが、人材を養成することは、ATRにとってどんな価値がありますか。

平田 私どもの研究活動を進める上で、非常にパワーになっていただいています。優秀な研究者で、こういう分野で、ATRで研究をやりたい、そういう方が来られていることもあるとはと思いますが。
 連携講座の場合、そういう方が、例えば脳やロボットの研究を進められ、トップレベルの論文を一緒に共著で書くといったケースがあります。また、それらの論文が面白いとマスコミに取り上げられたりしながら、良いサイクルで回っています。大学と企業、ATRみたいな研究機関とが連携することによって、いろいろな意味でシナジー効果が発揮できていると感じています。

小笠原 今、博士の人材を育成するのに、新しい方法論に基づいて、新しい課題に挑戦でき、かつ、イノベーション創出のためダイレクトに社会で活躍することを視野に入れるような博士人材を養成することが重要であると思います。そして、大学側だけではなく、企業や他の研究機関とも連携した博士人材養成システムを作ろうという動きが活発になっています。

平田 まさに私共が目指している高度人材の育成と奈良先端大が目指すところとは一致しているわけですね。

瀬渡 専門性や基礎研究の重要性もありますが、一方で社会に直ぐに役立つ研究となると、コーディネート力がありプロデュースできる人材が、これからすごく大事になってくると思います。そういう人材をどうやったら育成していけるか、ですね。

平田 奈良先端大の修了生が起業しておられるケースもいくつかあると伺っていますが、起業家精神を養うための講座も持っておられましたね。

小笠原 本学の情報科学研究科では、ATR、(公財)大阪市都市型産業振興センターと一緒に、「モノのインターネット」分野でのグローバルアントレプレナー育成プログラムを行っています。そこでは、講義やデスクワークのほか、優秀な学生はシリコンバレーへ派遣しています。

瀬渡 養成プログラムを受けた人材が、けいはんなに常に何人か配置されればすごく魅力的になりますね。企業側も、この地域に人材を送り込めば育って帰ってくる、という期待ができます。
 けいはんなでそのような取り組みが行われていることが認知されれば、また企業が集まってこられますね。だからこそ、意欲を持っている人たちが、どうやったら着目してくれるのかが重要です。

小笠原 先ほど議論したように、研究成果や成功モデルをアピールしていく必要があります。
 ここがオンリーワンの世界だ、または、ここが世界をリードしている、ということを見せないといけません。

平田 例えば、音声翻訳や音声認識の研究、そして人工知能の研究も、けいはんなが発祥の地みたいなものです。そういったものをもっと宣伝していかないといけないと思います。

小笠原 先見性のある先端的な研究を行ってきたけれども、それを世に実用化してアピールするところが弱かったですね。

平田 そうですね。それが、今後一層力を入れていくべき課題だと思います。

瀬渡 地元の記者も最近けいはんなの動き、成果に注目し始めて、情報を欲しがっています。専門的な記者にけいはんなに来てもらい、奈良先端大とか幾つかの企業とで意見交換会を行う方法も考えられます。
 実は、一般紙の記者クラブと、2カ月に一度懇談会を始めています。記者の方々は、ゆっくり話が聞けるから、初出の情報じゃなくてもいいと言っています。それはそれで行いながら、一方で、専門的な研究をどの様な形で発信していくかが課題です。

【イノベーションの方向】

平田社長

平田 ATRでは、健康長寿社会の実現に向けての研究開発に積極的に取り組んでいるところです。その実現のための健康や医療に関わったイノベーションを起こす原動力を、けいはんな学研都市でつくっていきたいと思っています。
 脳科学、人工知能、ロボットなどけいはんな学研都市の研究開発力の強みをいかしたイノベーションが、けいはんな学研都市の目指すべき方向の一つかなと思っています。

小笠原 そこは今の科学技術の展開において欠かすことはできません。だから、バイオの方でも、人の健康医療に近づいてくる研究者を、今、意識的に増やしています。

平田 奈良先端大には、けいはんな学研都市を何か大きな一つの方向へ持っていくための核・原動力になっていただきたいと思っています。

小笠原 本学のもう一つの大きな資産は、植物研究です。歴史的に植物の研究では日本のトップを走っていますし、その位置は変わっていません。その意味では、低炭素社会、「グリーンバイオテクノロジー」というキーワードを、けいはんなでどこまで実現できるかが、もう一つの課題と思います。

平田 そのような目標に向かって、役割分担の問題はあるとは思いますが、中身の濃い産学連携の旗振り役を担っていただくことを期待しています。

瀬渡 たくさんの大学がこの地域にあって、同志社大も大きな存在価値があると思いますが、やはり奈良先端大というのは、いろいろな発信力もあるし、中身もあります。大学同士も、先生同士でいろいろ繋がっておられるようなので、それらを繋ぐことができ、かつ、企業もそこに入ってくると、この地域は大きく動き出したなと見えて、相乗効果が生まれそうな気がします。じゃあ、具体的にどうしたらいいのかということですね。

小笠原 これから考えていきましょう。

瀬渡 はい、よく考えていきましょう。

【奈良先端大の大学改革構想について】

小笠原 本学では、平成30年4月から情報、バイオ、物質の3研究科を1つに統合し、専門分野に関する高度な知識・技能と、それに隣接する融合・複合領域を理解できる広範な専門性を身に付け、また社会全体を見渡す俯瞰的な視点で物事を考えられる人材を育成する体制に移行する大学改革構想の検討を進めています。
 「情報理工学プログラム」、これは今の情報の教育研究の本流ですが、それと「バイオサイエンスプログラム」の間に「情報生命科学プログラム」という教育研究分野があります。
 また、「バイオサイエンスプログラム」と「物質理工学プログラム」の間に、「バイオナノ理工学プログラム」を考えています。ケミカルバイオロジーと生体的な物質の二つの視点を組み合わせることによって生まれる新しい理工学です。
 「情報理工学プログラム」と「物質理工学プログラム」の間では「知能社会創成科学プログラム」を考えています。IoTの世界になるとセンサマテリアルとインフォマティクスの両方を理解して新しいものを開拓する人材が必要です。
 それと、「データサイエンスプログラム」ですが、情報、ICT技術を基にしてバイオ・物質分野の科学技術研究にチャレンジする人材の育成を進めたいと考えています。

平田 これは非常に結構なことだと思います。これからの時代に、それぞれの分野を分けすぎてタコツボ人間をつくるのではなく、それぞれが融合したような研究体制、あるいは教育体制を構築されるのは大賛成です。

小笠原 そして、社会的、実践的な視点から、企業の方々にも参加してもらえれば、立派なプログラムになっていくと思います。

平田 そうですね、ぜひ実現を目指していただきたい。先ほどの教育と研究を一体的に捉え、かつ組織的にも融合化を図られる取り組みをぜひ実践していただきたいですね。

瀬渡 いろいろな企業の方々が関わってくるときに、研究成果はどうなるのですか?1対1の関係か、複数になった方がいいのか。つまり、1対1で企業と奈良先端大でやっているときに、「こういう視点が必要だから、ここも入れようか。」という議論はどうなっていますか?

小笠原 それは1対1で研究を行っている場合と、オープンになっている場合とで、テーマの立て方が違います。オープンで行う場合のテーマは、相当チャレンジ性がある、「当たったら面白い」テーマだと思いますね。

瀬渡 そういう発想ができる人がいて、そういう議論がないと、様々なオープンイノベーションは起こりにくいような気がします。
 誰でもやることばかりやっていてもダメで、何かチャレンジングなことが動く地域でないといけない、と思います。だから、そういう雰囲気は一体どうしたらできるのかと考えます。可能性はあるはずですね。

平田 研究でも教育でも、受ける人が「楽しみながらやる、好きになる」というのがキーワードと常々思っています。本人が「楽しみながらやる、好きになる」ための、環境を創っていくことも大切ですね。

瀬渡 平田社長は凄く幅広い分野のこともご存じですし、どんな人がこの地域におられるか、よく分かっておられる。「こういう動きをしたらあの人たちと一緒にできそうだ」のような話を作っていただけると、我々も、「私達もこんな手伝いができます」みたいな雰囲気を一緒になって高めていく、そういう動きはできそうな気がします。

【けいはんな地区における奈良先端大の役割】

平田 「けいはんな地区におけるイノベーション創出と奈良先端大の貢献」、それはまさに我々が奈良先端大に大いに期待しているところです。
 産業界同士はなかなか連携しにくいですが、大学には企業と一緒になって全部をうまくまとめていくという役割があるのだと思います。そういう意味で、奈良先端大には大いに期待すると同時に、けいはんな地区における奈良先端大の果たすべき役割というのもそこにあると感じています。

小笠原 ありがとうございます。それをうまく調整してまとめる専門の教員を配置して、ということがあり得るかもしれないですね。

平田 また、国立大学協会の「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン概要」の中に、「構造改革の方向性(国立大学の将来像)」があり、その①に記載されている「地域の多くの優れた若者を引き寄せ、地域で活躍する人材育成」については、ぜひ実践していただきたいですね。
 また、②に記載されている「地域に大きな経済効果をもたらし、地域の強みを生かしたイノベーション・新たな産業シーズの創出、あるいは、産業の変化に対応する社会の学び直しの場の提供」についてもぜひ実践していただき、けいはんな学研都市でリーダーシップを発揮してほしい、というのが我々の強い期待です。

小笠原 了解です。やはり大学の機能強化について考える時、地元のけいはんなとの連携、けいはんなの評価は、本学として重要な課題だと思います。
 本日はありがとうございました。