読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第39回:情報科学研究科 ディペンダブルシステム学研究室 井上美智子教授〔2016年8月23日〕
「コンピューター 信頼基盤」

井上美智子教授
井上美智子教授

 人工知能や自動運転、スマートハウス(省エネ住宅)など、コンピューターを使った新しいテクノロジーが次々に登場しています。このような新しいテクノロジーの誕生は、データを効率良く処理して目的を遂げるための新しいアイデアと、それを実行するコンピューターの高性能化に支えられています。

 コンピューターの心臓部は、プロセッサーと呼ばれるLSI(大規模集積回路)です。このプロセッサーが正しく動かないと、車の自動運転時にコンピューターが誤動作を起こして大変なことになります。誤動作を防ぐには、LSI自体を安全で信頼できるものにしておく必要があります。

図1
(上)LSIにデータを入れ、正しく処理しているかを試す

LSIは数センチ四方の小さなものですが、その中には、トランジスターと呼ばれるとても小さな部品が、数千万個から数億個も搭載されています。一つのトランジスターは、数十ナノ・メートル(ナノは10億分の1)という、とても小さなサイズです。この小ささが高性能なコンピューターを実現可能にしている反面、全てのLSIを故障なく製造し、出荷後も数十年間にわたって誤動作しないことを保証するのは、大変困難な課題になっています。

私たちの研究室では、LSIの製品テストや、信頼性向上のための研究をしています。出荷時に厳しい製品テストを行い、出荷後にも誤動作をしないよう万全の備えをすることで、信頼できるコンピューターを実現するのです。

図2
(下)LSIにテストデータを処理させ、温度の変化を確認する

コンピューターはLSIの回路で計算するだけの、デジタルの世界だと思われていますが、そうではありません。本当に信頼できるコンピューターを実現するためには、LSIが計算能力を発揮できるコンディションを整えてやることも重要です。そのため、消費電力や電圧、電流、発生する熱の変化など、多岐に渡ったテストを行っています。

これからの社会の安全を影で支える大事な研究を、地道に続けているのです。