読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第58回:情報科学研究科 生体医用画像研究室 大竹義人准教授
〔2018年3月21日〕
「コンピューターで筋肉を診る」

大竹義人准教授
大竹義人准教授

 人間は筋肉を使って歩いたり、物をつかんだり、投げたりします。病気やケガで筋肉の一部を失うと、力のバランスが崩れ、全身に影響を与えてしまいます。

 骨や筋肉の病気を治療する整形外科の分野では、治療後にそれぞれの筋肉にかかる力や方向の変化を予測することが重要です。これまでは経験を積んだ医師が、患者の状態をよく観察し、検査のデータと併せて総合的に判断していました。

 私たちはこの予測を、コンピューターを駆使することで、より少ない検査データから、もっと正確に、早く行えるのではないかと考えています。

 人工知能が、囲碁や将棋、顔写真の認識、翻訳など様々な場面で人間の能力を超える力を発揮している現状は皆さんもご存じでしょう。筋肉の振る舞いの予測についても、人工知能が活躍しています。

 予測には、筋肉全体の形や、骨とのくっつき方を知る必要があります。コンピューター断層撮影装置(CT)で、骨や筋肉の断面を見ることができます。ただ、たくさんの異なる働きをする筋肉が密集しているため、一つ一つの筋肉を見分けるのは容易ではありません。

 熟練の医師でも断面の画像を丹念に観察すると、患者1人につき数日かかってしまうのが現状で、これまでは行われませんでした。

図1
CT画像から筋肉の付き方を解析するイメージ図(上段)。下段の画像は患者ごとに筋肉の付き方が異なることを示している

 私たちの研究室では、この困難な作業を深層学習(ディープ・ラーニング)を活用し、大量の画像を基に多様な筋肉の特徴を学んだ人工知能を使って自動化に成功しました。患者1人分の筋肉の形を2、3分で見分けられるシステムが開発できたのです。これまで現実的には不可能だった患者ごとの予測が可能になりました。一部の筋肉の体積が減少してしまう病気の診断や治療などに、大変役に立つ情報が得られました。

 複雑なケースへの対応など、まだ課題は残っていますが、コンピューターが患者ごとに異なる筋肉の付き方を認識し、振る舞いを正確に予測することを究極の目標として、研究を進めています。