~広報誌「せんたん」から~

[2017年9月号]

窒化ガリウムのパワーを向上

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フレキシブル熱電デバイス
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透明熱電デバイス

 「地球の持続的発展に貢献するため、エネルギーに関する喫緊のテーマに基礎と応用の両面から取り組んでいます」と浦岡教授は説明する。次世代のエレクトロニクスの材料やデバイス(装置)のモノづくりに挑んでおり、大きく分けて現在のテーマの1つは自然光利用の太陽電池や、排熱などから電気を得る熱電変換素子。もう1つは、エネルギー消費が少ない透明酸化物半導体を使った薄膜トランジスタ、電力の供給を効率よく行うパワー半導体と幅広い。

 浦岡教授らが、最近、力を入れているのは、窒化ガリウム(GaN)を使い、1千ボルトを超える高電圧にも耐えられるパワー半導体の研究。先行しているシリコンカーバイド(SiC)の性能を超える可能性がある。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のプロジェクトで、浦岡教授らは新しい縦型MOS(金属/酸化膜/半導体)構造を採用し、超臨界水を施すことで、製品の高信頼化、高性能化を同時に実現する技術を開発した。超臨界水に含まれる活性な酸素や水素が、半導体界面の高品質化に寄与していると考えている。「窒化ガリウムを使うと熱を発生せず放熱の必要がないので、装置が小型で済むという利点があります。電気自動車の場合ではモーターが軽くなり、1回の充電で走行できる距離が大幅に長くなるでしょう」と利点を強調する。

 これまでバイオの技術で大容量メモリーの製造に成功するなど分野にとらわれない視点で実績を積んできた浦岡教授。「知りたいという興味の深さは人一倍強く、世の中の役に立ちたい、次世代に負の遺産は残さないとの思いで研究を続けてきました」と語る。

 自宅では、近くの畑を借りてトウモロコシ、イチゴなど多種の果菜を栽培する。収穫時には研究室全員でじゃがいも掘りなど行うが「作物の成長を見ていると、学生が育っていくのと同じ感動を覚えます」。

未来の太陽電池

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イオン液体を用いた高信頼性薄膜トランジスタ

 本学の1期生でもある石河准教授は太陽電池の劣化など性能の評価技術の開発に取り組んでいる。最近では、本学に国際共同研究室を置くフランスの大学「エコール・ポリテクニーク」と共同で、基盤に溶液を塗布して安価に作れる「ペロブスカイト型太陽電池」を調べた。このタイプは高い光電変換効率で知られるが、劣化しやすく不安定。そこで、石河准教授らは、室内での使用や、効率安定化のための塗布膜の構造を提案した。

 一方で、液晶パネルの画素駆動装置などに使われる透明酸化物半導体「IGZO」(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素で構成)を使った薄膜トランジスタについて、従来の40%以下の低い駆動電圧で稼働し、劣化量を半減するという大幅改善に成功した。透明で柔軟なモニター画面の実現にもつながる成果だ。

 石河准教授は、小学生時代に科学雑誌で、太陽光のエネルギー量は、世界中で1年間に使うエネルギー量を1時間で賄えると知り、太陽電池に興味を持った。「太陽電池の普及により、今後は寿命を終えた太陽電池が産業廃棄物として問題になる。そのような尻拭いをする技術の開発なども手掛けていきたい」と強調する。

 趣味のサッカーは10歳のころから始め、大学ではゴールキーパーを務めた。「全体を俯瞰して判断するポジションの経験は、研究チームを組むときにも役立ちました」

進む融合研究

 一方、上沼助教はGaNのパワーデバイスの研究で、大型放射光施設SPring-8の強力な放射光を使って基板と絶縁膜の界面の原子の状態を調べた。水蒸気で処理することにより界面品質が改善され、性能が向上することがわかった。

 また、熱電変換素子の研究も手掛け、これまでの金属とは異なり透明酸化物半導体を材料に使うという世界に先駆けた研究に取り組んでいる。透明の材料なので、窓に付けて外気と室内の温度差で発電できるという発想だ。「工学に限らずバイオなどさまざまな分野を融合して研究し、その新しい分野の第一線に立つことをめざしています」。休日は2歳の子供のイクメンに徹している。

 藤井助教は、石河准教授とともにIGZOを使った薄膜トランジスタの高性能化に成功。人工網膜など医療用途の研究も考えている。さらに、ダイヤモンドを使ったパワーデバイスの研究にも着手した。「ダイヤモンドは、本来、絶縁体ですが、シリコンのように不純物を入れると半導体化し、究極のパワーデバイスの材料になると言われていています」。

 ベルムンド特任助教は、フィリピンの大学を卒業し、本学で博士号を取得した。薄膜トランジスタを低温で製造する研究で、「本学の研究者にはチーム力があり、自分の成果を出し合えるのはメリット。直面した技術の問題点をどのように克服するか、常に考えています」と話す。バスケットボールが趣味で、こちらの上達の秘訣は「頭だけではなく、体全体でうまくなろうとすること」。

 エコール・ポリテクニーク出身のボルジェト特任助教はペロブスカイト型の太陽電池の信頼性を高める研究だ。「信頼性はかなり良くなりましたが、材料に有害な鉛が含まれるので、どのような物質に換えるか検討しています。フランスは研究する学生が少なく、学生主体の日本と雰囲気はかなり違います」という。サイクリングが大好きで寒い日も毎日、自転車で通勤している。

意欲とメリハリ

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薄膜トランジスタの発熱解析

 多彩なテーマを研究するだけに、所属する学生数は留学生10人を含む39人と大所帯に膨らんでいる。

 木瀬香保利さん(博士後期課程3年生)は、薄膜トランジスタの自己発熱による劣化現象の解析を行っている。「TFTの形を長方形から、丸型にすると熱が抑えられることがわかりました。より実用的な透明ディスプレーに結び付けたい」と意欲を見せる。韓国の大学院にインターシップで1カ月間滞在した。「韓国では就職先からの奨学金で研究している学生がほとんどなので意欲的で計画性もある。その点を見習いたい」。

 藤本裕太(同2年生)さんは、GaNのパワーデバイスについて、水蒸気による処理で電気特性がよくなる現象を物性の面から調べている。「徐々にメカニズムがわかってきており、早期に解明したい」。3か月間、ドイツで研究してきたが「朝早くきて午後
5時には切り上げ、その間に効率よく研究するという、日本にはないメリハリのあるスタイルを重視すべきだと気づきました」。