小林でございます。令和6年度奈良先端科学技術大学院大学「入学式」にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。

 皆さん、奈良先端科学技術大学院大学へのご入学、おめでとうございます。ご家族の皆様にも心よりお祝い申し上げます。本学は科学技術と教育研究の、文字通り最先端を行く最高学府であり、皆さんが持つ理想を実現するうえで、最適な環境を提供してくれるものと確信しております。

 さて、奈良に数ある神社仏閣の中でも、「奈良の大仏」で特に親しまれている東大寺は華厳(けごん)宗(しゅう)の寺院であります。華厳宗では、「この世の一切の事象は同じ真理によって成立し、独立した存在であるが、相互に関係し調和している」と説きます。極めて抽象的で難解な説でありますが、その教え示すところは「自分本位にならない」ということであり、偏ったものの見方や、自分に都合の良いように物事を解釈することなく、出来事や存在するものを有るがままに見ることが肝要、という哲学的思考であります。研究活動も同様で、事象や存在するものに先入観なく対峙することにより真理を解き明かし、新しい技術を獲得し、社会に役立つ成果へと繋げる、それが皆さんに期待されることであると私は思うのであります。

 また、ご承知の通り奈良は、日本の思想や文化に大きな影響を与えた仏教が最初に伝来した土地であり、古来、新しいものを受け入れ、育む風土が根付く土地柄でもあります。この奈良での「新たな挑戦」が理に適っていることは歴史が証明しており、その成果を世界に発信していくことが本学の役割であると思うのであります。今日一日は、晴れて先端大の一員となった喜びを噛みしめるのも良いでしょう。しかし、その誉(ほまれ)に安住することなく、明日からは大いに研鑽を積んでいただきたいと思います。

 最後になりましたが、皆さんの大学院生活が実り多きものとなり、幸多き人生を歩まれんことを祈念いたしまして、お祝いの言葉とさせていただきます。

2024年4月5日
公益財団法人 奈良先端科学技術大学院大学 支援財団
理事長 小林 哲也