読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第38回:バイオサイエンス研究科 高山誠司教授〔2016年6月21日〕
「良質な植物作るF1種」

高山誠司教授
高山誠司教授

 スーパーなどで売られているキャベツや白菜、大根、ブロッコリーなどの形は、とてもきれいに揃っていると思いませんか。実は、これらはみんなアブラナ科の野菜。市販されているもののほとんどは「F1種(一代雑種)」と呼ばれ、形や味など、優れた品質を生む遺伝子を多く持つ種子から育てられているのです。

 F1種とは、遺伝子がよく揃っている「純系」2種類を交配させて作った1代目の雑種のことです。純系は形はよく揃いますが、病気に弱いなどの欠点もあります。これに対し、F1種は2種類の純系の優れた遺伝子を併せ持つため、それぞれの親の利点を取り入れ、病気にも強いのです。

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(左)A型のアブラナの雌しべの先に異なるB型の花粉がつくと花粉管が伸びて受精する(右)同じA型の自分の花粉がつくと受精できない

 あまり知られていませんが、F1種は、アブラナ科の植物が持つ「自家不和合性」という性質を利用して作られています。これは、同じ花の雄しべと雌しべの間では受精が起こらず、別の花から虫などによって運ばれてきた、遺伝子の型が違う花粉とだけ受精する性質のこと。雌しべは、花粉の遺伝子型の違いを見分けているのです。

 F1種を作るには、例えば遺伝子型が「A型」の純系と、「B型」の純系を交互に並べて畑に植え、蜂を飛ばせて交配させます。するとA型同士、B型同士は交配しないので、この畑から採れる種子は全て「AB型」のF1種になる、という仕掛けです。

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自家不和合性を利用したF1種子の生産方法

 私たちの研究室では、アブラナ科などの植物が、どのようにして花粉の遺伝子型を見分け、受粉を受け入れたり、拒否したりしているのかの仕組みの解明を進めています。そのなかで、植物が動物の免疫系にも匹敵する巧妙な仕組みを発達させていることが、分かってきています。

 将来、こうした研究から、様々な種類の植物に応用できるF1種子の作り方を開発できるかもしれません。生育が旺盛で、病気にかかりにくいなど、優れた性質を併せ持つF1作物が誕生し、安定した食糧生産につながることを期待しています。