読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第42回:情報科学研究科 光メディアインタフェース研究室 向川康博教授〔2016年11月15日〕
「材質を見分ける賢い目」

向川康博教授
向川康博教授

我々人間は、物体を見ただけで、それが何であるのかを理解することができます。例えば、目の前に金属製のハサミや、ガラス製のコップが置かれたら、見ただけで瞬時にその名前を答えられます。

では、ロボットの場合はどうでしょうか?

ロボットは、目の代わりにカメラを使います。物体を撮影して得られた画像から、そこに写っているものは何かを推定するのです。そのような研究を「コンピュータービジョン」と呼びます。

コンピュータービジョンで物体を見分けるためには、色や形が重要な手掛かりとなります。

カメラを使えば、物体の色を赤・緑・青の3原色の明るさとして知ることができます。しかし、例えば夕焼けのもとでは白い物体が橙色に見えてしまうように、照明の色も考慮して色を推定しなければなりません。

形についてはもう少し複雑で、異なる角度から見た時の見え方の違いや、陰影のつき方などから、表面の高さや面の向きなどがわかります。

図1
カメラで撮影した画像から色や形、材質を手掛かりに物体を推定する

もうひとつ、重要な手掛かりは材質です。同じ色で同じ形の物を見ても、材質が異なると印象が違います。例えば、チョークとロウソクは、どちらも白くて円柱形をしていますが、見分けることは簡単ですね。人間は経験を生かして、わずかな光の透け具合や表面の凹凸などから、材質を言い当てることができます。

しかし、コンピュータービジョンにとって、こうした判別は非常に手間のかかる作業です。なぜ、見え方の違いが生じるのかという理由を見つけるところから始まり、どんな材質の場合、どんな見え方になるのかという関係を、計算で求める必要があるからです。

将来、家庭でロボットが家事をこなしてくれる時代が来そうですが、重い金属だとわからずに片手で持って落としてしまったり、ガラス製のコップを強く握って割ってしまったり、そんな失敗をしないためにも、材質を見分ける賢い目が必要です。さらに、目に届く情報を人間と機械が共有できる日を目指して、私たちは研究に取り組んでいます。