読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第57回:物質創成科学研究科 マテリアルズ・インフォマティクス研究室 畑中美穂特任准教授
〔2018年2月21日〕
「ミクロな世界 スパコンで見る」

西條雄介教授
畑中美穂特任准教授

 みなさんは身の回りの道具がうまく動かない時、どうしますか。分解して、動きを妨げている部分を探し、そこを集中的に直しませんか。化学の世界では、この作業は簡単なことではありません。フラスコの中の化学物質はあまりにも小さく、一つ一つの姿や動きを見ることが非常に難しいからです。

 化学物質がミクロの世界で、どう動き、どう作用するかは、物質の最小単位である量子に関する物理法則に従っています。シュレディンガー方程式と呼ばれる計算式で説明できることが知られています。

 ところが、この方程式は厄介なことに解けないのです。方程式はあるのに、その答えはどうしても得られない。少しでも実態に迫ろうと、近似解を出す計算方法が世界中で開発されました。

 最近では、スーパーコンピューターでかなり解に近づけるようになりました。その結果、様々な化学物質の立体的な構造や色、磁性の強さなど特性を調べるシミュレーション(模擬実験)に応用されています。

 私たちの研究室でも、新材料の開発に期待されるレアアース(希土類)がどのように発光するか、その性質をより簡単に見積もる計算手法を開発しました。温度によって異なる色に発光するセンサーなどの材料の設計に役立てられています。

 さらに、日本発の技術として注目を集めているのが、「反応経路自動探索」という手法です。化学物質がどのような化学反応を起こし、どのような物質に変化するかという情報はもちろん、反応中の化学物質の立体構造やエネルギーの変化まで、自動的に調べられます。

図1
全国の研究機関で共同利用されているスーパーコンピューターにインターネットで接続すれば、どこからでもシミュレーションを行える

 コンピューターを用いることで、複雑な化学反応の様子を省力化して見られるようになりました。化学、薬学系のものづくりに大いに役立っています。

 これをさらに改良し、得られた有用な化学反応の経路を人工知能(AI)に学習させることに、私たちの研究室は取り組んでいます。ただ、人間とAIでは化学反応に対する認識が少し異なるようで、情報をAI向けに変換する必要があります。この違いに着目すれば、化学反応に関する新発見につながる重要なヒントが得られるかもしれません。