~広報誌「せんたん 開拓者たちの挑戦」から~

[2019年5月号]

植物と微生物の複雑な関係を読み解く

 植物は、人の腸内細菌のように膨大な数の微生物と共生していて、生長が促されたり、病害の原因になったりしているが、全体像はつかめていない。そこで、地球環境の変化により、食糧の不足が予測される中で、微生物群との詳細な関わりを明らかにし、その仕組みを活かして豊かな土壌を育み、化学肥料や農薬の使用を減らすといった、新たな農業や物質生産の実現のための研究が、国家プロジェクトとして進んでいる。

 本学植物免疫学研究室の晝間敬助教は、科学技術振興機構の「さきがけ」個人研究のなかで、「共生する微生物群の機能解析と活用により、植物の生長を促す技術を開発する」というテーマが、平成29年度に採択された。研究費は4年間で4,000万円。

 「今回は、地下の微生物群(叢)が植物の根にどのようなメリットを与えるのか、そのメカニズムを調べるための実験を重ねていて、その知見を野外圃場で検証していくのがねらいです」と話す。

 具体的には、実験室内では、モデル植物のシロイヌナズナを使って微生物との関係を調べ、さまざまな環境の変化に見舞われる野外では、同じアブラナ科のコマツナなど葉物野菜を使う。実は、晝間助教は、海外特別研究員として派遣されたドイツ・マックスプランク研究所で注目を浴びる成果を挙げ、2016年に発表した。葉などに黒い斑点をつける炭疽病という重大な病害を起こすカビ(糸状菌)の近縁種が、シロイヌナズナの生育に不可欠な栄養素であるリン(P)が不足した時に、リンを運んで生長を助けていることをつきとめたのだ。「悪玉の近縁種が善玉の顔を持ち、害虫に対する耐性など有益な機能も備えていることが初めてわかりました。このような微生物を手掛かりにして、微生物と植物の複雑な関係のメカニズムを解き明かしたい」と抱負を述べる。

 土の中には約1,000万種もの微生物がいて、植物の根などを介して微生物と相互作用していることはわかっていたが、詳細な微生物の構成情報は、超高速で遺伝子DNAを解析する「次世代シーケンサー」が登場して初めて明らかになった。ただ、多数の微生物の遺伝子・ゲノム情報が蓄積されているものの、おびただしい数の微生物と植物の関わりは一通りではないので、その解析は困難を極める。
 
 このため、晝間助教は、複数の微生物を組み合わせて感染させ、植物の反応を見るシンプルな実験系をつくるなどして、絡まった糸を解きほぐすような研究に挑んでいる。「さきがけ研究では、昆虫学や情報学など他の分野の研究者が参加していて知的な刺激が得られます。将来的には、基礎研究だけでなく、例えば、成長を促進する微生物のデータを蓄積しておき、栽培する環境によって組み合わせを変えるなど、農業への応用にも役立てていきたい」と抱負を述べた。